人手不足のプロジェクトを乗り切ったリーダーたちが取るアプローチとして、(1)タスクを“手抜く”、(2)早く育つ仕掛けを用意する、(3)時間ロスの芽を摘み取る、の三つを挙げた。これらのうち、真っ先に取り組むべき“定跡”は、「よい手抜き」を考えてみることだ。
よい手抜きとは、やるにこしたことはないが、やらなくてもよい仕事をやめる、もしくは省力化する策である。例えば、プロジェクトの計画段階でメンバーに割り当てたタスクでも、実はチーム外の関係者を巻き込んで知恵を借りたほうが早い場合がある。あるいは、工数の大きさの割にプロジェクトの目的達成にはそれほど影響しないタスクがあり得る。
このような、やらずに済むタスクを見つけ出し、うまく手抜くことが求められる。
ユーザーに任せられる仕事を探す
関係者をうまく巻き込んでプロジェクトを成功に導く。野村総合研究所の西河 卓氏(関西支社 関西システム部 グループマネージャー)は、これを実践した。西河氏が、あるサービス業のグローバル展開のプロジェクトで、人手不足に見舞われたときのことだ。
「システムの規模感に対して業務知識を持つメンバーや方式設計の担当者が全く足りなかった。手を尽くしたが集まらなかった」(西河氏)。利用部門の事業計画が固まっているため、納期も延長できない状況だった。
人手不足のため、要件定義などの上流工程のタスクは予定工数を超過した。それでもプロジェクト全体で見ると予定通りに完了できた。その秘訣は、「メンバーがやると時間が掛かる」「利用部門のほうが知見がある」といったタスクを、WBSの作成段階で西河氏が探しておいたこと。これらのタスクに利用部門を巻き込み、共同で進めるようにした。
例えば、外国語対応に伴うタスクなどだ。グローバル展開するシステムのため、画面には日本語だけでなく、英語やスペイン語などでも表示させる必要があった。さらに同じ英語でも米国とカナダでは「Center」(米国)と「Centre」(カナダ)のように、一部の単語の表記が変わる。表記が違っても、データベース上のデータは整合性を取る必要がある。
各国語に翻訳したり、表記をチェックしたりする作業は確実に時間を取られる。人手不足のチームには負担が大きい。そこで西河氏は利用部門のキーパーソンと交渉し、翻訳作業の専任担当者を確保してもらった。
最悪の場合は、利用部門にタスクを押しつけているように受け取られてしまう。西河氏は前向きに受け入れてもらえるために「早めに相談することと、インプットとアウトプットを明確にしておくこと」を心掛けた。翻訳作業であれば、英語のドキュメントは用意しておき、翻訳のボリューム感を先に明確にした上で依頼した。
実は西河氏は、利用部門を巻き込むタスクを洗い出す作業自体にも、チーム外の関係者の知恵を借りている。具体的には、WBSの作成時にチームが担当しないタスクについても、誰が担当するのかを明記し、有識者のレビューを受ける(図1)。この工夫によって、有識者にもアイデアを出してもらいやすくなった。
リスクマネジメントを“手抜く”
利用部門の巻き込みや有識者の知恵の調達によって、メンバーがやらずに済むタスクを洗い出せたら、残るタスクをいかに省力化するかを考える。
省力化の有力候補は、プロジェクトマネジャーやチームリーダーといったリーダークラスのマネジメント業務だ。人手不足のプロジェクトにおいて、あらゆるマネジメント業務に教科書通りに取り組もうとすれば、リーダーの負荷が高まる。リーダーのタスクが滞ると、メンバーのタスクも停滞しかねない。だからこそ検討しがいがある。
例えばウルシステムズの前岩浩史氏(マネジャー)は、プロジェクト全体の特性を見極め、一定の条件を満たしているときはリスクマネジメントを大幅に省力化する。これにより、リーダークラスのリソース不足を補う。