トンネル工事の現場は昔に比べると安全になったとはいえ、崩落による作業員の死亡事故が、今でも起こっている。この種の事故を根絶することは不可能なのか。準大手ゼネコンの安藤ハザマは、AI(人工知能)の力を借りることにした。

 安藤ハザマは、古河ロックドリル(東京都中央区)、マック(千葉県市川市)と共同で、AIを使って発破後の切り羽(トンネル先端の垂直な掘削面)の安定度を自動的に予測するシステム「TFS-learning(Tunnel Face Stability calculate system by machine learning)」を開発。施工中の山岳トンネル工事に適用した。

図●TFS-learningのシステム画面。開発に当たり、山口大学大学院創成科学研究科の進士正人教授の指導を受けた
図●TFS-learningのシステム画面。開発に当たり、山口大学大学院創成科学研究科の進士正人教授の指導を受けた
(出所:安藤ハザマ)
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 岩盤質の地盤にトンネルを掘る場合、NATM(New Austrian Tunneling Method、読み方は「ナトム」)と呼ぶ工法を使うのが一般的だ。

 NATMによるトンネル掘削の流れはこうだ。まず、トンネル先端の切り羽に油圧削岩機のドリルを使って複数の装薬孔を削孔する。次に、装薬孔に火薬を詰めて爆発させ、岩を砕く。火薬を爆発させることを「発破」と呼び、一度の発破で数メートルほど掘り進む。

 最後に、砕いた岩を搬出するとともに、トンネルの天井や壁面、切り羽が崩れないように、H形鋼の鋼製支保工(仮設の構造物)を建て込んだり、コンクリートを吹き付けたりする。

 山岳トンネル工事では通常、発破後の切り羽を目視で観察し、岩質や圧縮強度のほか、風化の程度や割れ目の状態、湧水の有無などをもとに「切り羽評価点」を付ける。点数に応じて、鋼製支保工の設置間隔や吹き付けコンクリートの厚さなどを決めるためだ。

 TFS-learningでは、切り羽に装薬孔を掘る際に、油圧削岩機の削孔速度とフィード圧、打撃圧、回転圧の4種類のデータを計測。これらの削孔データから発破後に現れる切り羽の評価点を予測することで、切り羽の安定度を評価する。予測結果は切り羽の安定度に応じて色分け表示され、不安定箇所を可視化する。

図●装薬孔の削孔データ。削孔速度、フィード圧、打撃圧、回転圧を計測する
図●装薬孔の削孔データ。削孔速度、フィード圧、打撃圧、回転圧を計測する
(出所:安藤ハザマ)
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