自然を相手にするトンネル工事は、常に危険と隣り合わせだ。事前の調査では分からないことも多く、熟練技術者の知識や経験に基づく臨機応変な判断がものをいう。だが、工事現場の悩みの種はご多分に漏れず、人材不足。AI(人工知能)は救い主となるか。

 JR博多駅前の「はかた駅前通り」が幅27m、長さ30m、深さ15mにわたって陥没した2016年11月8日早朝の大事故は記憶に新しい。事故原因は、大成建設JV(共同企業体)が地下で進めていた地下鉄七隈線のトンネル工事だ。掘削中にトンネルが崩落し、大量の土砂と地下水がトンネル内に流れ込んだために、地上の道路はあえなく陥没した。

写真●2016年11月8日、JR博多駅前の道路が突然、大きく陥没した。原因は地下で進められていたトンネル工事だった
写真●2016年11月8日、JR博多駅前の道路が突然、大きく陥没した。原因は地下で進められていたトンネル工事だった
(出所:日経コンストラクション)
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 この工事現場で大成建設JVが採っていたのは、NATM(New Austrian Tunneling Method、読み方は「ナトム」)と呼ぶ一般的な工法だった。

 NATMでは、アーチ状に地山(自然の地盤)を掘削した後、壁面にコンクリートを吹き付け、ロックボルトを打ち込むなどして補強する。補強方法は、地質の良し悪しを見ながら変更していく。地質を見誤ると、トンネルが崩れて博多の道路陥没のような事故を招くこともある。

 地山がもろい場合は念入りに補強して安全性を確保しなければならないが、事はそう簡単ではない。補強を手厚くすれば、その分だけコストが高くつく。限られた予算で安全に工事を進めなければならず、現場の技術者は常に難しい判断を迫られる。

 ところが、地質の専門技術者は慢性的に不足している。地山判定(岩判定)と呼ぶ地質の評価会議全てに専門家が立ち会うのは不可能に近い。

 優れた地質技術者の頭脳を、山岳トンネル工事の現場に行き渡らせることはできないものか――。準大手ゼネコンの安藤ハザマと日本システムウエア(東京都渋谷区)は16年9月、AIで切り羽(トンネルの掘削面)の地質を自動評価するシステムを開発し、試験運用を始めた。特許も出願済みだ。