画像認識や自動翻訳など特定用途で実績を上げている「専用AI」に対し、人間と同じように様々なタスクを処理できる知性を持つ「汎用AI」はまだ基礎研究の段階にあるとされる。

 ドワンゴ人工知能研究所の山川宏所長は、最新の脳神経科学の成果を取り込んだ、汎用AIの研究開発に取り組んでいる。実現する手法として提唱するのが、大脳皮質や海馬、視床下部など脳が持つ部位ごとの機能をコンピュータに模倣させ、各機能を連携させることで汎用性の高い知性を実現するもの。山川氏らはこのアプローチを「全脳アーキテクチャ(WBA)」と呼んでいる。

 脳神経科学は近年大きく発展している。すでに脳の様々な部位について、神経回路の動作メカニズムが解明されつつあるという。ただし、脳が各部位をどう連携させて、柔軟にタスクを処理したり、抽象的な認識や思考をしたりするかは未知の部分が多い。

 山川所長は、最新の脳神経科学に基づき、柔軟な知性を実現するための各部位の連携メカニズムの研究開発を指揮する。SF(サイエンスフィクション)に登場するような、自ら意思を持つAIに結び付くものではないが、柔軟な知性が近い将来に実現することを確信している。

 特集「AIと倫理」第4回は、富士通在籍時から一貫して脳神経科学やAIの研究開発に携わっていた山川宏所長に、汎用AI開発の最新状況と、汎用AIを踏まえた倫理規定に対する考えを聞いた。

「家事ロボット」は汎用AIで実現する

研究を進めている「汎用AI」はどのようなAIを指しているか、確認したい。

 分野を問わず様々なタスクができる知性を持ったAIのことだ。できるタスクの種類や数が多いほど汎用性が高いAIとなる。AIの研究開発では「弱いAI」「強いAI」という概念もあるが、汎用AIは、(AIが自ら意識を持つという)強いAIと別の概念だと考えている。

 タスクを指示したら、学習や練習をしたうえでそのタスクをこなせる能力を身に付けるという使い方も汎用AIの特徴だ。つまり学習能力の汎用性が高く、新しいタスクや例外的なタスクにも対応できるAIを指すとも言える。最初から様々なタスクに対応できるAIは「万能AI」と呼んで汎用AIとは区別している。

[画像のクリックで拡大表示]