かつての元請け社員が、「入社させてほしい」と懇願する中小システムインテグレーター(SIer)がある。従業員約100人のSIer・ケーエムケーワールドだ。同社は現在、大手が手を出していない特定分野で存在感を発揮し、下請けから脱却しつつある。今ではかつての元請けが羨む企業にまで成長した。

元請けの圧力で「2700万円」の損失

 ケーエムケーワールドの創業は2001年。音響メーカー出身の車 陸昭社長がIT業界の成長に着目して起業した。SEを大手SIerに派遣するSES(システムエンジニアリングサービス)事業を手掛ける2次請けとしてスタートした。

ケーエムケーワールドの車陸昭社長
ケーエムケーワールドの車陸昭社長
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 ところが創業してすぐに、「想像を絶する下請けの辛さを味わった」(車氏)。例えば創業2年目に、元請けが手掛ける7億円ほどのプロジェクトに下請けとして加わったときがそうだった。仕様変更が一向に収まらない。車氏らは24時間体制で対応に当たり、「年末年始の休日を返上し、1週間の睡眠時間は10時間ほどしかなかった」(車氏)。

 にもかかわらず、プロジェクトは中止に。問題はそのあとだ。元請けはケーエムケーワールドに対して、数週間後の1月末で契約打ち切りと伝え、さらに当初の報酬4000万円から700万円減額するよう強要したのだ。もちろん契約解消は違反であり、社員を引き上げても仕事がない。既にコストは6000万円を超え、減額すれば2700万円の損失となる。

 元請けは譲らなかった。車氏らは今後の付き合いを考えて契約打ち切りと報酬減額を受け入れた。「これが下請けの現実だ。こんな状況では社員や会社を守れない。やり場のない怒りと悔しさがこみ上げた」と車氏は当時を振り返る。別の案件ではメンバーが血を吐いて救急車で運ばれたことも。「当時は一部の元請けだけかと思ったが、他の大手SIerでも状況は変わらなかった」と車氏は説明する。

 車氏は、ユーザーと直接取引する「元請け」になることを固く誓った。“逆襲”の始まりである。