これまでのあらすじ

 「新田さん、あなたは『働き方改革プロジェクト』のマネージャーです。ミヤタ自動車の働き方を変えてください」

 新田めぐみ(にった めぐみ)33歳。ミヤタ自動車の経営企画部に勤める新任課長。史上最年少で課長に昇進したばかり。就任早々、副社長特命の社内横断プロジェクトのマネージャーになることを言い渡される。テレワークなど場所にとらわれない柔軟な働き方を社内に導入せよとのこと。人事部や国内マーケティング部、情報システム部、工場の物流部など、社内の各部門から集まったメンバーらを率いて、旧態依然とした日本企業のワークスタイル変革に向けて突き進む。

 だが思い通りにはいかない。プロジェクトメンバーはみんな、言いたい放題。考え方も意見もやる気もバラバラのメンバーに、翻弄される毎日。そこでめぐみは、メンバーの意識合わせをするべく、静岡県掛川市にある研修所にこもり、「プロジェクト合宿」を開催した。

ミヤタ自動車 「働き方改革プロジェクト」メンバー

新田 めぐみ(にった めぐみ)33歳
経営企画部 課長

この物語の主人公。ミヤタ自動車の経営企画部に勤める女性社員。史上最年少で課長に昇進した。課長就任早々、副社長特命の社内横断プロジェクト「働き方改革プロジェクト」のマネージャーを言い渡される。今まで野生的な勘と愛嬌だけで生きてきためぐみ。プロジェクトマネジメントとはいったい、何をどうしたらよいのか分からない。気合いと根性で突き進んでは壁にぶつかり、落ち込んではまたはい上がるタイプ。

沼部 勇人(ぬまべ はやと)34歳
情報システム部 課長代理

めぐみとは同期入社。物静かで冷静なタイプ。ミヤタ自動車の社内システムプロジェクトのマネージャー経験が豊富。「働き方改革プロジェクト」では、あたふたするめぐみにプロジェクトマネジメントの基礎を教えてサポートする。

大森 雪菜(おおもり ゆきな)27歳
人事部 主任

ミヤタ自動車の服務規程を管理する担当者。「時短勤務」「男性の育児休暇促進」など、これまでも働き方を変える様々な施策を打ってきたものの、なかなか浸透せず、困り果てている。「働き方改革プロジェクト」では、めぐみの頼れる右腕となる。めぐみとは対照的に、おっとりしたタイプ。

池上 直樹(いけがみ なおき)31歳
国内マーケティング部 課長代理

フットサルが趣味のスポーツマン。「働き方改革プロジェクト」のメンバーで唯一の転職者。2年前に食品メーカー「山王製菓」からやって来た。熱意を持って入社したが、旧態依然としたミヤタ自動車の体質に飲み込まれ、今では「どうせ何を言っても無駄だ」と諦めている。働き方改革プロジェクトに対しても冷めている。二言目には「まあ、サラリーマンですから」が口癖。プロジェクトの中盤から、不穏な動きを見せ始める。

萩中 大五(はぎなか だいご)43歳
袖ヶ浦工場 物流企画部 課長

「働き方改革プロジェクト」で唯一、工場のメンバー。プロジェクトの打ち合わせのたびに、袖ヶ浦から高速バスに乗って、都内にある品川本社までやって来る。工場の部門で働き方を変えるなんてあり得ないと思っており、そもそも働き方改革に反対。正直言って、このプロジェクトにアサインされたことに迷惑している。若くして課長に就任しためぐみのこともよく思っていない。工場特有の「縦型組織」「トップダウン」が体に染みついている。ただし、「腹落ち」すれば、味方になってくれるタイプ。会社では親分肌だが、家庭では逆。

 「次に、このプロジェクトのステイクホルダーを分析しませんか?」

 勇人(ミヤタ自動車情報システム部課長代理)が提案した。めぐみ(経営企画部課長、働き方改革プロジェクトのマネージャー)を含む、ほかのメンバー4人は何のことやら分からず、反応できずにいる。勇人は構わず続ける。

 「昨日、このプロジェクトでは、誰とどんなコミュニケーションを取るべきかについて話し合ったよね。もう一歩踏み込んで、そもそもこのプロジェクトの成果は、誰にどんなメリットをもたらすのか。荒っぽい言い方をすれば、『誰得(だれとく)?』を想定しておきたい。プロジェクトのゴールを達成するため、誰を巻き込んだらいいかが見えるから」

 確かに、その視点は重要だ。めぐみ自身、これまで幾多の「失敗プロジェクト」をミヤタの社内で見聞きしてきた。その多くがプロジェクトメンバーだけが突っ走って非現実的な方向に行ってしまったとか、抵抗勢力につぶされたとか、関係者の巻き込みが足りないことに起因していた。

 「『誰得?』って言うけれど、そんなの社員のために決まっているでしょ。働き方を変えるプロジェクトなんだから」。ぶっきらぼうな口調で言い放つ大五(袖ヶ浦工場物流企画部課長)。昨晩の深酒がまだ抜けきれていない様子だ。

 「そうとも限りませんよ。このプロジェクトって、副社長の大塚さんの思いつき、いや、発案なんですから。大塚さんが得するような成果を出せば、イイんじゃないですか」。直樹(国内マーケティング部課長代理)があとに続く。彼もまた、どことなく投げやりな感じなのが気になる。

 「でも、それだけじゃないと思います。『学生さん』というステイクホルダーも見逃せないですよ。最近、採用活動をしていて、すごくそう感じます。みなさん、ワークライフバランスについて、とても関心が高いんです」。雪菜(人事部主任)の一言で、空気の流れが変わった。説得力がある。皆、「うん、うん」とうなずいた。

 「ほかにもまだまだ出てきそうね。いいわ、このプロジェクトのステイクホルダーと『誰得?』を、どんどん洗い出しましょう」

 言うが早いか、めぐみは大きな模造紙を持ってきて、机に広げた。