日本のオフショア開発先として有力なベトナムが、IT技術者を倍増させる。現在は約30万人とされる同国のIT技術者を、2020年までに60万人に拡充しようという野心的な計画だ。この計画は、日本にとっても無関係ではない。日本に迫り来るIT人材不足に対する助け船となる可能性を秘めているからだ。

 「世界中のIT需要に応えるため、IT技術者を倍にする計画を立てている」――。ベトナムのICT最大手FPTコーポレーションのチュオン・ザー・ビン会長は取材に対し、こう明かした。計画を主導するのは、ベトナムの科学・技術省、教育・訓練省、IT業界団体のベトナム・ソフトウエア・アソシエーション(VINASA)。政府と民間が国を挙げて、IT分野での競争力強化に乗り出す格好だ。

ベトナムICT最大手であるFPTコーポレーション傘下FPTソフトウェアの開発拠点
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ベトナムICT最大手であるFPTコーポレーション傘下FPTソフトウェアの開発拠点
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ベトナムICT最大手であるFPTコーポレーション傘下FPTソフトウェアの開発拠点

 とはいえ、一から育成するのは現実的ではない。大学で数学や物理を専攻していた人材をIT技術者に転向させることで、一気に人数の底上げを狙う。副首相の指示の下、大学卒業者がIT専門の大学や短期大学に再度入学することを支援し、IT企業に就職しやすくするプログラムを始めているという。2017年10月にも、1期生が就職の時期を迎える。

日本にとっては渡りに船

 300万人超のIT技術者を擁し、世界中に人材を供給する中国やインドに比べると、ベトナムのIT技術者数は10分の1と見劣りする。ただし日本向けのオフショア開発に限っては、同国の存在感は小さくない。情報処理推進機構(IPA)「IT人材白書2013」によると、ベトナム企業に直接発注したことのある日本企業の割合は、インドと並び19.2%。間接発注では21.1%とインドに8.8ポイントの差をつけ、中国に次ぐ人気を誇っている。

 ベトナム企業にとっても、日本は重要な市場だ。FPTコーポレーション傘下でオフショア開発を担うFPTソフトウェアの売上高は2016年度実績で約256億円と、この4年で約3倍に伸びた。成長の原動力となっているのは日本市場だ。2016年12月時点で55.3%を日本向けが占めており、米国向けは19.5%に過ぎない。