今回の民法改正では、システム開発委託契約で用いられる代表的な二つの契約形態(請負と準委任)に大きな影響が生じる。「請負」とは、プログラム開発など成果物を完成させる義務を負い、仕事の結果に対して報酬を支払う契約形態。「委任(準委任)」とは、成果物の有無にかかわらず、要件定義などの業務の実施に対して報酬を支払う契約形態である(図1)。

図1 請負契約と準委任契約の違い
図1 請負契約と準委任契約の違い
準委任契約は仕事の完成責任を負わない
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 前回は、瑕疵(かし)担保責任にかかわる損害賠償の請求期間が変わるといった、請負契約への影響を解説した。今回はもう一つの請負契約への影響と、委任(準委任)契約への影響を解説する。なお前回と同様、ユーザー企業の立場で影響や注意点を説明する。

プロジェクト中断でも支払い義務

 図1で示した通り、請負契約では成果物の完成義務を負う。発注者であるユーザー企業は、その成果物と引き替えに報酬を支払う。つまり、民法の条文上は、システム開発が途中の段階でプロジェクトが中止した場合、ユーザー企業は支払う必要がないように見える。

 だが、さすがにそれは公平性を欠いている。そこで今回の民法改正では、成果物の一部が完成しており、その成果物によって利益(恩恵)をユーザー企業が得ている場合は、その分をITベンダーがユーザー企業に請求できることを明確にした。

 例えば、次のようなケースを想像してほしい。複数のサブシステムから構成される大規模なシステム開発を、あるITベンダーと請負契約した。しかし、プロジェクトの途中で一部のサブシステムに重大な欠陥が見つかり、委託したITベンダーの技術力では解決できないと判明。工期や予算の関係から、ユーザー企業は契約を解除(プロジェクトを中断)した。すでに完成していたサブシステムは、ユーザー企業が独自に別システムに組み込んで使っている。