NTT東西は加入電話網(PSTN)が2025年頃に維持限界を迎えることを受け、IP網への移行方針を示している。PSTNマイグレの現状を整理するとともに今後の方向性を徹底検証する。

 PSTNのIP網への移行を受け、総務省はNGNのオープン化に力を入れている。

 実は、NTT東西が第一種指定電気通信設備制度に基づいて接続事業者に開放(アンバンドル)している機能の大半はPSTN・メタル回線関連。NGN・光回線関連はごく一部に限られ、IP網への移行後は開放機能が大幅に減ることが予想される。NGNのオープン化を促進することで、競争の後退を避けたい考えだ。

 そこで、2016年7月には「NTT東西の利用部門が活用しているNGNの網機能のうち、接続約款に明記されていない網機能とその仕様の対応関係を明確に整理して報告すること」をNTT東西に要請した。2016年12月にはNGNの接続ルールに対する意見募集も実施したが、「残念ながら有用な網機能はあまりない」(業界関係者)とされる。このため、2016年11月に新たな開放が決まった優先パケット識別機能と優先パケットルーティング伝送機能の利用促進が中心となりそうである。

 NGNの転送品質は、(1)最優先クラス、(2)高優先クラス、(3)優先クラス、(4)ベストエフォートクラスの4種類。NTT東西の利用例を挙げると、(1)は「ひかり電話」があり、0AB~J番号を利用した品質保証型のIP電話サービスの登場が見込まれる。少なくともソフトバンクが「ホワイト光電話」に同機能を活用するとみられ、これに続く事業者の登場が注目される。(2)は「データコネクト」、(3)は「フレッツ光ネクスト プライオ」(NTT東日本)があり、映像配信をはじめとしたデータ系、特に法人向けサービスで期待が持てそうである。

 このほか、NGNの接続ルールを巡り、様々な要望が出ている(図1)。例えばソフトバンクは、法人向けに閉域性を高めたWANサービスを実現するため、NGN内の折り返し通信やインターネット接続を制限しやすくする仕組みの提供を要望している。さらに銀行ATM(現金自動預け払い機)のように多拠点かつ小トラフィックの用途にフレッツ・VPN、映像配信にフレッツ・キャストを活用したいため、それぞれを開放してほしいとする。

図1●NGN(次世代ネットワーク)の接続ルールに関する他事業者の要望
図1●NGN(次世代ネットワーク)の接続ルールに関する他事業者の要望
網終端装置(PPPoE接続)の見直しやゲートウエイルーター(IPoE接続) のPOI(相互接続点)の増設などが多い。
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 例えばフレッツ・キャストは、コンテンツ事業者が配信サーバーを持ち込むSNI接続だが、他事業者も同様なサービスを展開できるようにNNI接続による貸し出しを求めている。ただ、NTT東西はフレッツ・キャストのNNI接続は技術的に実現できないとしており、接続料化による料金の引き下げが争点となる。

第一種指定電気通信設備制度▲
不可欠性(ボトルネック性)のある設備、具体的には都道府県ごとに50%超の加入者回線を保有する通信事業者を対象とした規制の枠組み。NTT東西が指定を受けている。市場支配力の行使を抑止・けん制するため、接続約款(接続料・接続条件)は認可制となっているほか、接続会計の整理や網機能提供計画の届け出・公表が義務付けられている。
優先パケット識別機能と優先パケットルーティング伝送機能▲
収容ルーターに契約者ごとの利用条件、ゲートウエイルーターにポートごとの利用条件をそれぞれ設定することにより、NGN上の各ルーターで優先クラスのパケットをベストエフォートクラスのパケットよりも優先して転送できる機能。
利用促進が中心▲
中小規模の事業者でも利用しやすい接続料の実現を含む。例えばNTT東西は中継ルーターや収容ルーターなどのコスト配賦に「QoS換算係数」や「帯域換算係数」を採用しており、これらの係数を見直すことで接続料の引き下げを検討している。
フレッツ・キャスト▲
NGNのマルチキャスト(同報通信)の仕組みを使い、フレッツ光のユーザーにコンテンツを一斉配信する機能。