NTT東西は加入電話網(PSTN)が2025年頃に維持限界を迎えることを受け、IP網への移行方針を示している。PSTNマイグレの現状を整理するとともに今後の方向性を徹底検証する。

 PSTNのIP網への移行を受け、総務省は約1年間にわたって「移行後のIP網のあるべき姿」を徹底的に議論してきた。有識者会議(電話網移行円滑化委員会)の開催回数は2017年3月の1次答申までで計18回、ワーキンググループを含めると計27回に及ぶ。2017年4月以降は今夏~秋の2次答申に向け、「最終形に向けた円滑な移行の在り方」に関する議論が始まった。さらに別の研究会(接続料の算定に関する研究会)でNGN(次世代ネットワーク)の接続ルールなども議論している。今回と次回で、多岐にわたるテーマの中から注目ポイントを紹介する。

双方向の番ポは2025年頃に実現へ

 PSTNの移行問題は受け身的な議論が多い中、ユーザーのメリットが期待できるテーマが番号ポータビリティー(以下、番ポ)だ。固定電話の番ポは現状、NTT東西の加入電話(ISDNを含む)で新規に取得した電話番号だけが対象。NTT東西のひかり電話を含め、他事業者で新規に取得した電話番号(0AB~J)は対象外で、片方向だけの仕様となっている(図1)。番ポを利用できない番号数は増加傾向(2016年3月末時点で924万番号)にあり、乗り換えの阻害要因となる。

図1●IP網への移行後は双方向の番号ポータビリティーが実現へ
図1●IP網への移行後は双方向の番号ポータビリティーが実現へ
現状ではNTT東西の加入電話(ISDNを含む)からの転出だけが対象であり、利便性が高まる。
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 そこで、IP網への移行後は全事業者が番ポのデータベースを保有することで双方向の同番移行を実現する方針である。現状では番ポの対象でも同一収容局のエリア内でなければ同番移行できないが、この制約を同一番号区画の範囲などに広げる「ロケーションポータビリティー」の実現も検討している。多くの事業者は需要を見込めないうえにコストがかかるので後ろ向きだが、総務省が早期の導入を求めている。

 ただ、実現は2025年頃となる見込み。番ポのデータベースを参照する方式にENUMの採用を予定しており、全事業者が仕組みを新たに整える必要がある。「ENUM方式に移行していない事業者が一部でも存在すればつながらない事態も想定されるため、全事業者がIP-IP接続に切り替わったタイミングで初めて実現する」(NTT東日本)。ユーザーからの受け付けルールなどもこれからの調整となる。

片方向だけの仕様▲
固定電話における番号ポータビリティーの導入は2001年。導入前の議論では「双方向」の仕様も検討したが、コスト高(860億円程度)で見送った経緯がある。
同一収容局のエリア内でなければ▲
収容局単位で番号ポータビリティーのデータベースを管理しているため、こうした制約が生じる。今後は中継ルーター単位などで番号ポータビリティーのデータベースを用意することで「ロケーションポータビリティー」を実現したい考え。
ENUM▲
E.164 NUmber Mapping。E.164の電話番号とインターネット上のサービスを対応付ける仕組みのこと。DNSの仕組みを応用し、電話番号に対応する接続先の情報を取得する。