NTT東西は加入電話網(PSTN)が2025年頃に維持限界を迎えることを受け、IP網への移行方針を示している。PSTNマイグレの現状を整理するとともに今後の方向性を徹底検証する。

 総務省の有識者会議における今後の議論で最も紛糾が予想されるのは、マイラインの扱いである。NTT東西は移行先のIP網にマイライン機能を実装すると膨大な費用がかかるため、サービスの廃止を要望している。一方、競合事業者はマイラインの廃止で顧客がNTT東西に流出してしまうことを懸念する。むしろ、光IP電話にマイラインを実装すべきと逆提案しており、互いの主張がぶつかり合っている。

登録数シェアはNTT系が8割超

 現状、マイラインの提供事業者は9社。このうち、4社はNTTグループ(東西、コミュニケーションズ、ぷらら)であり、合計の登録数シェアは市内/市外/県外/国際通話のいずれも80%を超える(表1)。NTT東西は提供を継続すれば良さそうだが、「3桁億円」(業界関係者)とされる実装コストの高さもさることながら、全国一律の通話料が主流のIP電話で細分化された距離区分ごとの事前登録を奪い合うマイライン競争はもはや時代遅れと考えている。既存顧客を維持したい競合事業者向けには通話サービスを卸提供する。卸料金は「通話料×▲α%」という形で一定率を割り引く。

表1●マイラインの登録状況(2016年3月末時点)
NTTグループ4社合計の登録数シェアは市内/市外/県外/国際通話のいずれも80%超を占める。
表1●マイラインの登録状況(2016年3月末時点)
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 一方、KDDIはIP網に移行後もマイラインを簡便な形で実現できると指摘している。NTT東西がIP網のメタル収容装置に既存の加入者交換機を流用する点に着目。元々、マイライン機能は加入者交換機に実装してあるため、提供を継続できるはずと迫った(図1)。実際、NTT東日本によると、開発や改造にコストがかかるものの、実現できるのは事実。ただ、加入者交換機を流用したメタル収容装置もいずれは利用できなくなるため、あくまで一時的な対処にしかならないと反論している。

図1●マイラインの扱いに関するKDDIの提案
図1●マイラインの扱いに関するKDDIの提案
メタル収容装置には加入者交換機を流用するため、同交換機のマイライン関連機能を一定期間、継続的に利用すれば現行と同様なサービスを維持できるはずと主張している。
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マイライン▲
NTT東西の固定電話を対象とした「電話会社選択サービス」。ユーザーは4桁の事業者識別番号(00XY)をダイヤルしなくても、事前に登録した内容に基づき、市内/市外/県外/国際の区分ごとに通話が自動的に中継電話事業者に振り分けられる。
顧客がNTT東西に流出▲
NTT東西は、移行後のIP網にも00XY番号のルーティング機能を実装する方針である。企業の場合は相対契約が多いことに加え、構内交換機(PBX)で00XY番号を付加しやすいため、影響は少ないとみられる。問題は00XY番号が手入力となってしまう個人の顧客である。
卸料金▲
一般には公表せず、要望事業者に個別に開示する。事業者ごとに差は設けず、同一にするという。なお、通話サービスの卸提供を受けた事業者は設備の保有が不要。「マイラインの提供事業者による利用を想定したものだが、それ以外の事業者による利用を制限するものではない」(NTT東日本)としている。つまり、新規参入も考えられるわけだが、NTT東西が提示する割引率次第。顧客の獲得や請求に一定の費用がかかるほか、音声トラフィックも減少傾向にある。単独の事業運営は相当に厳しいとみられる。