高精度なデジタル地図を手掛けるヒア。同社を通じて“協調路線”を走るのが、アウディ、BMW、ダイムラーの独大手自動車メーカー3社である。その一方で、これらジャーマン3は自動運転車両の開発では激しく競い合う。協調と競争の使い分け。これが自動車開発で世界の先頭を走ってきたジャーマン3の姿だ。

 いち早く自動運転車の実用化を目指すフォルクスワーゲン(VW)グループのアウディ、シェアサービスとの連携に力を注ぐダイムラー、世界が注目するエヌビディアとは距離を置いてインテルと手を組むBMW――。車両開発における3社の取り組みは大きく異なる。

エヌビディア採用で「世界初」を目指すアウディ

 トヨタ自動車との提携を発表し、今や時代の寵児ともいえるIT企業の米エヌビディア。アウディはエヌビディアにいち早く目を付けて、長年協業してきた。2社が協業し始めたのは、今から10年前となる2007年。当時は自動運転技術ではなく、メーターやカーナビの画像処理にエヌビディアのGPU技術を使うためだった。

 エヌビディアが自動運転用コンピューター「DRIVE PX 2」を2016年に発表したとき、最初に採用を決めたメーカーはスウェーデン・ボルボである。だがエヌビディアが最初に採用を呼びかけたのは、アウディとされる。

 当時、アウディは自動運転の基礎技術と言える自動ブレーキの画像認識に、イスラエルのモービルアイ(2017年3月にインテルが買収すると発表)の製品を採用していた。モービルアイの製品を採用し続けるか、エヌビディア製品に切り替えるのか。アウディは時間をかけて見極めた。アウディが、レベル3以上の自動運転技術の開発でエヌビディアに切り替えることを発表したのは、2017年に入ってからのことだ。

 もちろん水面下では、モービルアイとエヌビディアの実力を並行して探っていた。協業することを発表したのと同時に、アウディはエヌビディアの技術を採用した自動運転機能を搭載した試作車を披露。長らくエヌビディアと協業してきたことの証左といえよう。

写真●アウディとエヌビディアが開発した試作車
写真●アウディとエヌビディアが開発した試作車
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 アウディは2017年7月、エヌビディアの車載コンピューターを使ったレベル3の自動運転車として最高級セダン「A8」を公開する計画だ。レベル3とは、通常走行時は自動運転で走行し、緊急時に運転者が操作する仕様のクルマ。渋滞中で速度が自足60km以下の状況で、運転者は運転操作を車両側に委ねられる。限られた範囲とはいえ、いよいよ「自動運転」と呼べる水準のクルマが出現する。

 同じ時期に米テスラが、レベル3の自動運転車を実用化することをもくろむ。同社は、既に販売中の車両にセンサーなどを搭載し、OTA(Over The Air:無線通信によるソフトウエア更新)でレベル3のクルマに“衣替え”する計画だ。「世界初のレベル3対応車」の称号を、アウディとテスラのどちらが獲得するのか。2017年はレベル3の自動運転車の動向に注目が集まる。