トヨタ自動車が進める自動運転開発を語る上で欠かせない会社がある。トヨタグループのデンソーだ。

 自動運転の世界で主導権を握るためには、センサーと認識技術の開発競争に勝たなければならない。デンソーは、トヨタグループ内でセンサーと認識技術の開発をリードしており、その取り組みに注目が集まる。

 デンソーが開発を急ぐセンサーとはどのようなものか。自動運転技術に必須とされるセンサーは大きく三つある。カメラ(画像センサー)とミリ波レーダー、周囲に光線を発して反射光から空間を3次元的に認識するセンサー「LiDAR(ライダー)」である。

 このなかでも、カメラ(画像センサー)を使った画像認識技術が脚光を浴びている。ディープラーニング(深層学習)の有力な用途が、画像認識技術だからである。学習データとなる画像を増やせば増やすほど、認識精度を大幅に向上させることができる。

 ディープラーニングによる画像認識機能を備えた車載AIコンピューターの開発を巡って、世界では三つの勢力が競い合う。車載AIコンピューターで躍進しているのが、米半導体メーカーのエヌビディアだ。先頭を走るエヌビディア連合を、半導体最大手の米インテルが猛追している。二つの連合体を追いかける日本勢が、デンソーと東芝の連合である。デンソーは東芝と共同で、低消費電力型のAIコンピューターを開発し、エヌビディアやインテルと真っ向から勝負する。

 デンソーと東芝は2016年10月、高度運転支援や自動運転技術の実現に向け、次世代の画像認識システム向けAIを共同開発することを発表した。具体的には、ディープラーニングの仕組みを取り入れた「DNN―IP」と呼ぶ技術を共同開発する。デンソーは以前から、自動ブレーキの電子制御ユニット(ECU)に東芝の画像認識プロセッサー「ビスコンティ」を採用。デンソーと東芝の提携は、その延長上にある。

 「エヌビディアが深層学習に使うGPU(画像処理プロセッサー)は消費電力が大きく、自動車に向かない」。デンソーのある技術者は、こう対抗意識をむき出しにする。トヨタのAI開発子会社であるTRI(トヨタ・リサーチ・インスティテュート)のギル・プラットCEO(最高経営責任者)は、「現状の製品(車載コンピューター)の消費電力は大きい。クルマの走行距離が減ってしまう」と懸念する。

 デンソーはこれまでも、消費電力を抑えられる深層学習アクセラレーターと呼ばれる専用回路の設計に取り組んできた。脳の仕組みを模したニューラルネットワークを電子回路として構成し、高負荷の処理をリアルタイムに計算する。東芝も深層学習を使った画像認識技術の開発を進めており、2社の技術を組み合わせる。

図●デンソーが開発する深層学習アクセラレーター
図●デンソーが開発する深層学習アクセラレーター
(a)車載カメラを模した市販カメラで、歩行者検知するデモの様子。(b)深層学習に特化したハードウエア構成
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