トヨタ自動車は自動運転の中核となる制御アルゴリズムの開発を競争領域とみなし、自ら中心になって取り組んでいる。加えて熱心なのが、クルマの乗員の“気持ち”を把握するAIの開発だ。

 自動運転が実現すると、車内における乗員の過ごし方は激変するだろう。車両の競争力は、乗員への「おもてなし」が左右する可能性がある。運転しない乗員が過ごす時間に提供するサービスは何か。トヨタが模索し始めた。

 トヨタのAI開発子会社であるトヨタ・リサーチ・インスティテュート(TRI)は2017年1月に、運転者の感情や好みを推定する「感情AI」を搭載した車両「愛i(アイ)」を発表した。今後数年内に、開発した技術の一部を搭載した実験車両を日本の公道で走らせる。

 感情に着目したのは、「クルマに乗る人に、一番良い時間を提供する」(同社CEOのギル・プラット氏)ため。感情が分かると、乗員が好むサービスを提供しやすくなるという。加えて、AIでユーザーの感情に合わせた便利な機能を提供する代わりに、乗員のデータを集めたい思惑がある。

人の感情を推定する仕組み

 開発した感情AIは、大きく三つの機能で構成する。「学習」「防御」「鼓舞」である。このうち中核が「学習」で、人の状態と嗜好を推定する技術を開発した。状態推定は、マイクやカメラで収集した音声や表情などのデータを基に、深層学習で感情や覚醒状態を解析する。

図●「感情AI」の構成
図●「感情AI」の構成
中核となる機能が「学習」で、音声や表情などのデータを基に深層学習で人の状態や嗜好を推定する。推定した状態や嗜好の結果を基に乗員の気分を高めたり、眠そうであれば覚醒したりして、安全な自動運転を実現する。
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 嗜好推定は、「社会モデル」と「個人モデル」を比べて実施。前者はWebサイトにある大量のテキストデータを学習データとして使い、世間の話題に上る内容を抽出して分類する。

 後者の個人モデルは、SNS(交流サイト)や会話の内容などを学習データとして使い、個人が話題にする内容を抽出する。二つを比べて、世間の話題に対して個人の話題が大きい内容を「関心が高い」と推定する。

 「防御」は、学習による状態や嗜好の推定結果を使い、安全運転に役立つ機能を制御する。例えば眠気が大きいときは、座席を振動させるなどして交感神経を刺激し、覚醒度を高める。

 「鼓舞」は、学習結果に基づいて乗員の気分に合わせた対話機能を提供する。「会話は、人を覚醒するのにとても効果的」(トヨタMid-Size Vehicle CompanyMS製品企画ZF主査の岡部慎氏)と考えて開発する。