自動車メーカーとIT企業の合従連衡が世界で激しい。自動車メーカーが、自動運転技術の開発を単独で手掛けることが難しくなっているからだ。

 自動運転技術の開発には、既存の自動車メーカーに加えて、大手IT企業などが入り乱れて挑む。開発競争のきっかけを作った米アルファベット(旧グーグル、現在は傘下のウェイモが手掛ける)を筆頭に、配車アプリ大手の米ウーバーテクノロジーズや中国IT大手の百度などだ。最近、米アップルが自動運転車で公道実験することを米国で申請した。

写真●ウェイモが開発していた完全自動運転の試作車
写真●ウェイモが開発していた完全自動運転の試作車
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 自動車産業の参入障壁は、これまで高かった。工場への巨額の投資が必要な上に、世界の多くの規制に対応しながら3万点近いハードウエア部品を組み合わせる複雑な開発がいる。付加価値の源泉は、ハードウエアとその組み合わせ。自動車メーカー同士の競争は厳しく脱落するメーカーは多いが、異業種の企業が参入する余地はほとんどなかった。

 自動運転になると、クルマの付加価値の多くが認識技術や制御アルゴリズム、サービスといったソフトウエアと通信で実現しやすい技術に移る可能性が高い。IT企業は自らの強みを生かしやすく、既存の自動車メーカーと十分に戦えるとソロバンをはじく。内向きになりがちでハードウエアに強い自動車メーカーは、かつて経験のない未知の領域での競争に戸惑い、危ぶんでいるのが本音だろう。

 中でも脅威に感じるのが、スピード感の違いだ。自動車メーカーは、5年かけて自動車を設計し、生産拠点を慎重に選んで投資する。対してIT企業は、「(自動車メーカーから見ると)わずか1年の間に多くの商品を実用化する(速さを競う)F1の世界」(大手日系自動車メーカー幹部)。IT企業のスピード感で進む開発競争に自動車メーカーが現状の体制で臨めば、「必ず負ける」(同幹部)ことを覚悟する。