ITサービスの創出に適したデザイン思考のフェーズの最後は「試作」と「試行」だ。それぞれ順番に見ていこう。
5 試作(Prototype)
評価可能な試作品を作る
試作フェーズでは、採用したアイデアを煮詰め、試作品として目に見え、触れられる形に具体化していく。
形のある製品を含むアイデアであれば、実際にユーザーが触れられるモックアップの作成を試みたい。サービスになるアイデアの場合は、紙面上にイメージを描いたり、映像を作ったり、場合によっては寸劇(スキット)をしたりして、全体像を可視化する。
試作品を作るのは、曖昧なアイデアの段階からユーザーに評価してもらい、フィードバックを得るためだ。実際のサービスの形で可視化したり、手に取れるようにしたりすれば、ユーザーが迅速かつ正確にアイデアを理解できるようになる。さらに、メンバーが手を動かしてアイデアを形にしながら議論していく過程で、アイデアそのものが洗練されるメリットもある。
試作フェーズは、以下の三つのタスクから構成される。
(1)試作方法の決定:試作品の作成は、あり合わせのもの(紙や粘土など)で作ったペーパープロトタイプから、最終製品に近いようなプロダクトを作ることまでさまざまなやり方がある。最初は簡易なもので十分なので、リアリティーよりもアイデアのイメージをいかにしてシンプルに伝えるかを重視しよう。
(2)試作品の作成:試作品を実際に作成する。3Dプリンターなど、製品に近いモックアップを安価に試作できる方法がそろってきたので、うまく活用したい。予算が許される状況であれば、サービスに関するインタフェース部分を中心に、最小限の範囲でプロトタイプのアプリケーションを開発する。サービスの場合は、「カスタマージャーニーマップ」などを活用し、具体的なイメージを想起させることが多い。ブロック玩具などを活用して、サービスの利用イメージをビジュアル化する方法も有効である。
(3)ビジネスモデルの作成:試作品の作成と並行して、事業のイメージを想起するために、ビジネスモデルを検討していく。どの部分でマネタイズ(収益化の仕組み)をするかも、サービスデザインでは重要である。「ビジネスモデルキャンパス」などを活用して、まずは大まかなビジネスモデルから検討していく。
新しいサービスの全体像を可視化するための手法を二つ紹介しよう。
一つめの「カスタマージャーニーマップ」は、サービスが提供されることで生まれる「顧客経験」を構造化して図示したものである(図1)。
カスタマージャーニーマップでは、ユーザーとサービスの顧客接点(タッチポイント)のすべてを網羅しながら、サービスがユーザーに提供する経験をストーリーとして示す。これにより、実際のサービスによる顧客の行動や心理変化を推察できる。カスタマージャーニーマップの作成は、事前に想定されているペルソナ(仮想のユーザー像)ごとに行うことが多い。