2017年5月中旬に、39歳の若さでフランス大統領に就任したエマニュエル・マクロン氏だが、実は1年半ほど前の2015年10月に来日していた。当時の肩書は、フランス政府の経済・産業・デジタル大臣。本国ではスタートアップ企業の存在感を高めるためのキャンペーン活動「La French Tech」を推進、そして来日時にはフランス企業と日本企業との交流母体となる「フレンチテック東京」のオープニングイベントで挨拶するなど、起業エコシステム拡大の推進役を務めていた。

 こうした背景もあって、新大統領にはスタートアップ企業への支援がさらに拡大するとの期待が高まっている。大統領選挙直後に来日した、同国の貿易・投資の専門組織ビジネスフランスCEO(最高経営責任者)のミュリエル・ペニコー氏(この直後の組閣で労働大臣に就任)は、マクロン氏について「企業家精神の拡大や大企業との協業推進において経験が豊富。経済・産業・デジタル大臣時代に多くの成果を挙げた」という。

 確かに同氏の経済相着任中、フランスのスタートアップ企業の存在感は飛躍的に増した。日本でもスタートアップ企業への支援が増え、起業に向けた環境が整備されつつあるが、ビジネスフランス関係者の声を聞き、さらにその周辺の活動を調べてみると日本では見られないユニークなものが多い。特徴的なものを挙げてみると、

国際イベントにおける存在感向上支援

 年初に米国ラスベガスで開催されるデジタル技術の総合イベント「CES」には、「Eureka Park」と呼ばれるスタートアップ関連企業が集まる一角がある。このEureka Parkでは、2016年以降、フランスのスタートアップ企業の一団が存在感を見せつけている。2017年のEureka Parkに出展した600社のうち、フランス企業は190社とされ、全体の約3割を占める。La French Techのピンク色のロゴマークの効果もあり、その存在感は著しい。ここ数年のCESで世界中の注目を集めているCerevoの岩佐琢磨社長ですら、同氏のブログで「スタートアップシーンのほぼすべてはフランスに持っていかれた」と語るほどである。

 ビジネスフランスの技術担当ヘッドであるニコラス・バシッチ氏は、2017年2月に開催されたMobile World Congress(MWC)2017の取材の場で、「単に出展スペースを確保しているだけではない。展示会の特徴に合わせた『最善の顔ぶれ』の選抜や、今後の連携が期待できる相手との会合を設定することが重要だ」と語っている。ビジネスフランスが設定した会合の数は、MWC2017の4日間でなんと450にも上るという。その会合についても、個々の企業にヒアリングし、その企業に適切な相手を選び、時には断ることもあるとする(写真1)。

写真●MWC2017におけるフランス系スタートアップ企業の出展
写真●MWC2017におけるフランス系スタートアップ企業の出展
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