仕事と呼ぶ活動には、システムの利用者にとっての価値に直結する「働き」と、直結しないムダな「動き」があることをご理解いただけただろうか。動きが多いほど、長時間労働になってしまう。

 では、IT部門やIT企業のでムダな「動き」を増やす原因は何だろうか。筆者は主に四つあると考える。(1)目的が曖昧、(2)マルチタスク、(3)突発業務、(4)孤立状態だ(図2)。いわば、長時間労働を生む“四重奏”である。

図2●午後6時の帰宅を阻む4大原因
図2●午後6時の帰宅を阻む4大原因
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目的の曖昧さやマルチタスクに注意

 (1)の目的が曖昧という状況では、せっかく仕事に取り組んでも、先入観や思い込みによってピントを外したアウトプットを出しやすくなる。ピントが外れたアウトプットは、手戻りの原因となり、ムダを増やす。

 当たり前のことのように思えるかもしれない。それでも筆者のコンサルティング先の職場でも、初めのうちは目的が曖昧になっている状況を見かける。

 あるユーザー企業のシステム子会社で最近遭遇した例を挙げよう。若手のITエンジニアのAさんは、利用部門の依頼に応じて、ECシステムの画面の変更作業を担当した。利用部門の要望は、特定の画面の「ボタンを赤くしてほしい」だった。そこでAさんは、その画面にある四つのボタンを修正したところ、「違う」と言われ、やり直しを余儀なくされた。ムダな「動き」が発生したわけだ。

 改めて確認すると、利用部門はその画面の「最終確認ボタン」が分かりづらく、ECシステムの顧客が戸惑って前の画面に戻ったり、申し込みを諦めてしまったりしている現象を改善してほしかったという。利用部門の目的を初めから正確に把握できていれば、最終確認ボタンだけを赤くする、あるいは最終確認ボタンの配置場所を見直すといった手段を講じられたはずだ。

 「所属チームはプロジェクト開始時点でゴールをしっかり決めているから大丈夫」と考えているあなたも要注意だ。チームが掲げるゴールを踏まえて、あなたが担当する一つひとつのタスク(作業)にどのような目的があるのかを考えているだろうか。

 (2)のマルチタスクも、「動き」を確実に増やす要素だ。多くのタスクを切り替えながら仕事を進めるには、そのたびに頭の中を切り替える必要がある。いったん忘れた内容を思い出す時間が必要になる。一つのタスクに集中して進めるときよりも、多くの時間が掛かる。この頭の切り替え作業は「動き」であり、しかもそれに要する時間は馬鹿にならない。

 ITエンジニアの業務でマルチタスクを完全に回避するのは難しいだろう。プロジェクトのタスクに取り組んでいる最中に、運用中のシステムのトラブル対応に追われるといったことはどうしても起こる。特にトラブル対応の場合は、火の付いた部分から片付けざるを得なくなりがちで、時間刻みでさまざまな処理に追われる。

 とはいえ、同時に抱えるタスクはなるべく二つまでに抑えたい。三つ以上の仕事を同時並行で進めると、切り替え時間が大幅に増えることが、学術機関の研究で分かっているからだ。