はっと気がつくと、今日もまた午後9時を回っている。残業をせずに帰れたためしがない。

 業務改革のコンサルティングをするためにIT現場を訪れると、そんな風に悩むITエンジニアとよく出会う。他の業種と比べても、ITエンジニアは特に帰宅が遅くなりやすい仕事の一つだろう。「期日厳守のため、今日までにこの設計書を仕上げなければならない」といった事態に直面しやすいからだ。厄介なことに、そんな締め切りが迫る時に限って、既存のシステムのトラブルが発生して緊急対応を迫られることも少なくない。

 「帰宅が遅くなるのは、自分の仕事の処理能力が低いからではないか」と真摯に考え、改善の努力に励むITエンジニアも多い。ビジネススキルの解説書を読み、段取りをしっかりしようと1日の仕事の計画を立てる。それでも、飛び込みの仕事をアサインされてなすすべなく計画が崩れるなど、なかなかうまくいかない。これだけ頑張っているのに、という思いばかりが募る。

 こんな状況で「午後6時に帰ろう」と提案したところで、到底達成できない絵空事に思えるかもしれない。しかし仕事に対する見方を変え、進め方を変えると、決して不可能なことではないと気付くはずだ。単に計画を立てて頑張るとはひと味違う、時間節約術を紹介しよう。

「動き」を徹底的になくそう

 時間節約術を詳しく見る前に、まず理解しておきたいことがある。我々が仕事と呼んでいる活動には、「働き」と「動き」という二つの要素があることだ。いわゆるトヨタ生産方式や、それを米国の研究者が体系化したリーン生産方式では一般的な考え方である。

 字面は人偏が付くか付かないかだけだが、両者には大きな違いがある(図1)。「働き」とは、仕事のうち、システムの利用者にとっての価値に直結する要素を指す。一方、「動き」は利用者のための価値をもたらさない要素。ただ動いているだけに過ぎないというわけだ。端的に言えばムダである。

図1●仕事には「働き」と「動き」がある
図1●仕事には「働き」と「動き」がある
[画像のクリックで拡大表示]

 両者を区別しやすくするために、いくつか例を挙げてみよう。あなたが担当するタスクを完了したと判断し、レビューを仰いだとする。このとき、レビュー担当者がOKを出したら、これは基本的には「働き」といえる。