チャットを商品やサービスの販路として活用すれば、対話を通じて顧客が曖昧だった欲しいものに気付き、有望な見込み客として取り込める。先進企業の取り組みを紹介する。

 中古車の買い取り・販売チェーン「ガリバー」などを展開するIDOMは、2016年1月にWebチャット機能で消費者の中古車探しを支援するサイト「クルマコネクト」を稼働させた。チャットでの接客は、店舗で豊富な販売経験を持つ社員も交えたオペレーター4人が対応する。

 クルマコネクトは車を直接販売せず、相談にきた利用者を「有望な見込み客」に変えて、ガリバーの店舗に誘導する手段と位置付けている。しかし「当初は実績が上がらず、試行錯誤の繰り返しだった」と、サイト運営を指揮するデジタルマーケティングセクションリーダーの中澤伸也氏は振り返る。目に見えて効果が現れたのは、現在の手法が確立した2016年10月ごろからだ。サイトから店舗に誘導した見込み客との商談成功率は、直接の来店客の約2.2倍に達するという。その手法とは会話の文章まで定型化した緻密な商談シナリオを作り、この筋書き通りに接客するものだ。

IDOM▲
旧ガリバーインターナショナル。新車ディーラー事業や海外事業、ネット事業など、店舗や販路のブランドが多角化したことを受けて、2016年7月に社名を変更した。

2種類のシナリオで顧客の反応をテスト

 シナリオ作成では、まず顧客が「最初に挙げる好みの車種」と「実際に購入する車種」のデータを用いたリコメンドデータを作成する。車選びでは、顧客の嗜好や利用シーンに合う車種が最初の希望と異なる場合がよくあるという。例えば「ゆったりとした乗り心地を求めてワゴンを挙げる顧客でも、希望に合う車種はセダンのカテゴリーだったなどの例は数多くある」(中澤氏)。店頭やコールセンターなどでの接客実績データをAI(人工知能)技術を使って解析し、この「提案をずらす・広げる」ためのリコメンドデータを作った。

 リコメンドデータと店頭での接客ノウハウを組み合わせ、チャットでの接客シナリオを作り込む。クルマコネクトで相談を申し込むと、まず希望する車のカテゴリーや車種を絞り込んだり、画像で車種を示して利用者が「いいね」「いまいち」を選んだりするボットが起動する。ボットで利用者が「最初に挙げる好み」を把握した上で、有人によるチャット商談が始まる(図1)。

図1●中古車買取販売チェーン「ガリバー」はチャット相談で商談成功率が2.2倍に向上
図1●中古車買取販売チェーン「ガリバー」はチャット相談で商談成功率が2.2倍に向上
ガリバーを運営するIDOMでの活用例。事前にシナリオ化にした有人対応で「顧客の真のニーズ」に合った実車を提示することが来店を促すという。
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AI(人工知能)技術を使って解析▲
ソフト開発ベンチャーのFRONTEOと協業し、同社のAI技術「KIBIT」を使ってリコメンドデータを導き出した。