日立製作所が売上高10兆円を達成するには、オーガニックグロースだけでは難しく、M&A(合併・買収)が不可欠である。日立製作所の東原敏昭社長兼CEO(最高経営責任者)が考えるM&Aの方針とは。

(聞き手は戸川 尚樹=ITpro編集長、編集は高槻 芳=日経コンピュータ)


機構改革を終えた。IoT強化策も明確になった。あとは成長に向けて実行し、成果を出すだけという段階でしょうか。

 はい。とにかく何よりも大事なことは、スピード感です。日立キャピタルと日立物流をカーブアウト(事業分離)するなど、IT系に近い事業は内に入れ、それ以外は外部に出していくという方向性は明確にしています。

 ただし、「入れる方がないじゃないか」という指摘があります。

「攻めのM&A(合併・買収)」案件が少ないということですね。

 攻めといいましょうか、まあとにかく相手があることですから、容易ではないわけです。今、水面下では相当、いろいろな動きをしていますよ。財務面が改善していることもあり、「これから2年間で1兆円を(M&Aなどに)使うぞ」とも公言していますしね。

日立製作所 社長兼CEO(最高経営責任者) 東原敏昭氏
日立製作所 社長兼CEO(最高経営責任者) 東原敏昭氏
(撮影:陶山 勉、以下同じ)
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 M&Aに関しては私なりの考えがあります。目的はソリューションサービス事業を強化することです。企業を買収したはいいが、サービス事業を形にするまでに何年間もかかってしまうケースがありますが、これは避けたい。3〜5年先にキャッシュが入ってくるというのでは困るわけです。

 だから私は、プロダクト(製品)との抱き合わせで考えています。相手が強いプロダクトを持っていれば、すぐに利益が出ますから。

買収先は優れた技術・製品を持っていて、優良な顧客を抱えているということが条件ということですか。

 その通りです。はっきり言うと、「相手のセールスチャネルも含めて買わなければいけない」ということです。さらには、先方にいる人材のスキル。特にソリューション案件を獲得するには人材が非常に重要になります。これらの点については、デューデリジェンス(資産査定)の段階で精査しないといけません。

東原さんの納得できる相手先を見つけるのは相当難しいのではないですか。

 だからこそ、あまり焦らずに、でもスピード感をもって進めていきます。難しいとはいえ、それをやれなければ成長できません。

中国市場のサービスシフトに注目

グローバル戦略について教えてください。東原さんが注目している重点国・地域はどこですか。

 やはり米国に注目していますよ。攻めるなら米国だろうと。

 そのほかはAPACと中国です。今、中国事業の売り上げが1兆円を超えていますし、市場がプロダクト中心からサービス中心へと変化しています。今、中国ではタクシーを呼ぶにも、割り勘にするにもスマホを使うようになっています。中国の消費行動がサービス志向に変わってきているのです。

 昨年(2016年)12月、中国発展改革委員会(中国の経済官庁)で現地企業との討論会に参加しました。そこで、「病院や介護といったサービス事業を日立と一緒にやりたい」という要望がたくさん出てきました。

 これまで我々は、自動車部品やエレベーター、エスカレーターといったプロダクト販売を中心に中国ビジネスを展開してきました。それがサービス中心に切り替わっていく。そのタイミングを見極めているところです。

 米国については、ドナルド・トランプ大統領になり、雇用が確保され、マーケットとしても非常に安定するだろうと見ています。

もしトランプ大統領から、「日立も米国内でモノを生産しなさい」と言われたらどうしますか。

 現地でモノを作ってペイするならば、やったらいい。でも仮にやるとすれば、自分たちが工場を作るのではなくて、どこかを買収した方が良いでしょうね。