東芝が経営危機に瀕している今、日の丸・重電メーカーの代表として、日立製作所に対する期待はますます高まる。事業再編などによって低収益事業の整理を着実に進めている日立。だが、米ゼネラル・エレクトリック(GE)や独シーメンスと伍していくには、IoTプラットフォーム事業のさらなる強化が必要だ。機構改革の狙いとIoT事業の強化策について、東原敏昭社長兼CEO(最高経営責任者)が語る。

(聞き手は戸川 尚樹=ITpro編集長、編集は高槻 芳=日経コンピュータ)


足元の業績をどうみていますか。

 2016年に日立キャピタルと日立物流を(株式売却によって)連結対象から外したこともあり、2017年3月期の連結売上高は9兆円を見込んでいます。中計(2019年3月期)で掲げている売上高目標の10兆円に比べて、マイナス1兆円からのスタートになります。

 2017年3月期の営業利益当初は5400億円と予想していましが、5600億円に上方修正しました。営業利益率は6.2%。過去には業績見通しを下方修正したことがありましたが、今回は株主の皆さんの期待通りに利益を出したいと思っています。

日立製作所 社長兼CEO(最高経営責任者) 東原敏昭氏
日立製作所 社長兼CEO(最高経営責任者) 東原敏昭氏
1977年3月に徳島大学工学部卒業。同年4月、日立製作所入社。1990年9月にボストン大学大学院コンピュータサイエンス学科修了。1999年4月電力・電機グループ大みか電機本部交通システム設計部長。2006年1月に情報・通信グループ情報制御システム事業部長。2007年4月に執行役常務 電力グループCOOに就任。2010年6月、日立プラントテクノロジー代表取締役 取締役社長。2013年4月に日立製作所 執行役専務 医療事業担当、インフラシステムグループ長兼インフラシステム社社長。2014年月6月、代表執行役 執行役社長兼COO兼取締役に就く。2016年4月から現職。1955年2月16日生まれ。(撮影:陶山 勉、以下同じ)
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東原さんがCEOに就任してから2016年4月と2017年4月、2年連続で大きな機構改革を実施しました。

 2016年4月の機構改革では、製品・サービス別のカンパニー制を分割して、顧客や市場に合わせたスモールビジネスユニット制に再編しました。2014年4月に社長兼COO(最高執行責任者)になって2年間会社を見てきましたが、やっぱりカンパニー制だとユニットとして大きすぎると思ったわけです。例えば当時の情報・通信システム社だけをみても、売上高が約2兆円でした。

 大きいカンパニーがどーんとあると、やはり顧客企業の課題解決を迅速に進めにくいという問題があったわけです。さらに、組織が大きすぎると、現場と経営幹部との距離が離れてしまいがちなことも課題になっていました。

 それでいったんカンパニー制を壊して、組織の単位を小さくしたのです。これが2016年4月時点の機構改革。ユニットを小さくして課題を洗い出し、低収益事業をやめるのか、外に出すのかなど素早く手を打てるようにしたということです。

 スモールビジネスユニット制にしてから、低収益事業の整理がかなり進み、成長の形も見えてきました。ただし、分割したままでは、大きなスケールでM&A(合併・買収)を進めたり成長戦略を描いたりすることは難しい、という問題が次に出てくるのは分かっていました。

 そこで2017年4月に再度、機構改革に踏み切りました。「電力・エネルギー」「産業・流通・水」「アーバン」「金融・公共・ヘルスケア」の4分野にビジネスユニット(BU)を振り分けました。4つの分野ごとに、親和性の高い事業をゆるやかに統合したわけです。

 例えば、アーバンの分野は、「鉄道」と「ビルシステム」、「アーバンソリューション」というの3つのBUで構成しています。エコ家電や自動車関連の事業を組み入れました。ここではヒューマンセントリック、つまり人間を中心として、「QOL(クオリティ・オブ・ライフ)を向上させる」という大きな枠組みでまとめています。

 さらに2017年4月からは、四つの分野について担当副社長をアサインしました。「電力・エネルギー」は田中幸二、「産業・流通・水」は青木優和、「アーバン」は西野壽一、「金融・公共・ヘルスケア」は塩塚啓一という4人の副社長が担当します。副社長のミッションは、会社全体で物事を考え、BUの成長戦略をガイドしたりサポートしたりすることです。