積極的なM&A(企業の合併・買収)で、急速にグローバル化を進めてきた日本たばこ産業(JT)。「日経ITイノベーターズ」の2016年9月28日の会合で、JTの大型海外M&Aの計画、交渉、統合などを指揮した新貝康司代表取締役副社長が登壇し、大型M&Aで得た教訓と大仕事を成し遂げるリーダーの心得について語った。新貝氏は『JTのM&A 日本企業が世界企業に飛躍する教科書』の著者である。

日本たばこ産業(JT)の新貝康司代表取締役副社長
日本たばこ産業(JT)の新貝康司代表取締役副社長
写真:井上 裕康
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 「買収とは自ら“有事”を招き入れる行為です。想定しなかったことが次々に起こります。有事に適した意思決定体制を敷くとともに、リーダーが持てる知力と体力、能力のすべてを使い切らないと成功できません」。

 英ギャラハーの買収案件などを手掛けた日本たばこ産業の新貝康司代表取締役副社長は、「巨大M&Aで分かったグローバル経営の本質」と題した講演の中でこう語った。

 特にリーダーシップが必要なのは買収完了の直後だと新貝氏は話す。「ギャラハーのとき、買収準備チームは20人でしたが、買収を完了した瞬間から2万3000人を巻き込んだプロジェクトに変わりました。この時期、個々の雇用がどうなるか、先行きが不透明になるため、不安で仕方なくなる人が出てきます。組織に不安が広がり、企業が最も脆弱になります」(新貝氏)。

 買収の当初の目的を達成するためには、「人心が不安に陥る期間をどれだけ短くできるかが勝負でした」と新貝氏は言う。有事に適した意思決定体制を構築し、買収完了から100日間の短期集中で統合計画を作成した。決定事項は迅速に社内に発表。重要な意思決定の場に社内コミュニケーションの責任者を同席させ、根拠のない流言飛語が飛び交わないようにした。

対話がイノベーションを生む

 買収という有事を切り抜けた経験を基に、新貝氏はリーダーシップについてこう語る。「組織に真のリーダーシップが必要になるのは有事のとき。いざというときにリーダーシップを発揮するため、平時にフォロワーと良い関係性を構築しないといけません。平時は組織に奉仕するサーバントリーダーシップでよいと思います」(新貝氏)。