強い会社の変革者が集まり、本気で議論する「日経ITイノベーターズ」がサービスを開始した2015年11月25日。記念すべき第1回総会の基調講演にオリックスの宮内義彦氏が登壇した。日本を代表する名経営者の発言は今も色あせない。

 1964年にオリックスを設立した宮内義彦氏は、1980年の社長就任以降、33年間にわたりトップを務めた。当初13人だったベンチャーを総資産9兆円の企業に成長させるなど、日本を代表する経営者であり、変革者として知られる宮内氏。次世代の経営者・幹部に向けて、「リスクと経営」と題して話を始めた。

オリックスの宮内義彦シニア・チェアマン
オリックスの宮内義彦シニア・チェアマン
写真:井上 裕康
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 プレゼンテーション資料を一切使わず、自分の言葉で思いを物静かに伝える宮内氏。その話を聴講者は、かみしめるように聞いていた。早速、その内容を見てみよう。

 まずは、日本政府が2015年9月に発表した「新3本の矢」についてだ。新3本の矢とは、「GDP(国内総生産)を500兆円から600兆円へ拡大」、「出生率を1.4から1.8へ増加」、「介護による離職をゼロにする」という目標である。

 これらについて宮内氏は、「世間では、これは目標なので、“矢”ではなく“的”ではないかとの批判が出ています。的は出たが、どのようにしてそこに持っていくか、その方策が見えないというわけです」と話す。

 これと同じような議論は、企業経営にも当てはまると指摘する。「企業は収益を上げるために存在するという前提に立てば、収益の向上が“的”。的について議論しても生産的ではありません。的に向かってどんな行動を起こすのかが重要。その行動を一言で言うと、イノベーションではないかと思います」(宮内氏)。

イノベーションは経営本来の姿

 さらにこう続ける。「社会に対して経済的価値のあるものを作り続け、それが評価されることによってのみ、企業は存続できるのです。企業は、新しい、安い、珍しいなどと顧客に思われる製品・サービスをイノベーションによって生み出し続けなければならない。製品・サービスが高く評価された場合、社会が財布を開いてくれて、その結果、矢が的に当たるのです」。経営とは、そもそもイノベーションを含むものというわけだ。

 ところが、日本企業はそれが苦手だといえる。宮内氏は、日本企業のROE(自己資本利益率)は欧米企業の半分というデータを引用し、こう話す。「日本企業が的に当てる確率は、欧米企業の半分。つまり(日本企業は)イノベーションのやり方が下手ということです。これを何とかしなければならない」(宮内氏)。

 失われた20年――。「日本の経営者はここ20年、イノベーティブな行動を避けることが多かったのではないでしょうか。経済成長がない事業環境のなか、イノベーションによって新しい製品・サービスを作ることよりも、コスト削減を優先した。その結果、現在の低収益性につながっている」(宮内氏)。