どうすればイノベーションできるか――。世界中の経営学者が研究を重ねた結果、「世界標準」とも言える理論が構築されつつある。強い会社の変革者が集まり、本気で議論する「日経ITイノベーターズ」が2016年7月22日に開催した定例会議で早稲田大学ビジネススクール准教授の入山章栄氏が講演した。タイトルは「世界最新の経営学から見るイノベーション創出への示唆」。

早稲田大学ビジネススクールの入山章栄准教授
早稲田大学ビジネススクールの入山章栄准教授
写真:井上 裕康
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 「今、世界の経営学は、急速に国際標準化が進んでおり、各国の学者が経営理論、同じ分析手法を使ってビジネスの知見を膨らませています。その結果、イノベーションを起こす確率を高める方策が分かってきました。しかし、日本はその波に乗り遅れています」。早稲田大学ビジネススクールの入山章栄准教授はこう語り、危機感をあらわにする。

 入山氏は、ベストセラー『ビジネススクールでは学べない 世界最先端の経営学』の著者であり、最新の経営学の第一人者だ。その入山氏から見た、日本の現状が冒頭のコメントである。

 日本が世界の経営学から取り残されていることを象徴する一つの例が、世界最大の経営学会「アカデミー・オブ・マネジメント」への参加者数。「経済規模からみると、日本からの参加者数は明らかに少ない」と入山氏は話す。カナダで開催された2015年の世界大会では、参加者1万642人のうち、日本の大学から出席した学者は33人だったという。これに対し、米国の大学からの参加者は4000人、中国、ドイツからは600人、台湾や韓国、フィンランドからも150人が参加した。

 日本の書店に、経営学者のピーター・ドラッカーに関する書籍が数多く並んでいることも、世界の経営学からすると異端なのだという。「ドラッカーの言葉は大変参考になるのですが、世界標準の経営学ではありません。今、最先端の経営学者でドラッカーを研究している人は1人もいません。断言します。それほど、経営学の分野では、日本は“ガラパゴス化”が進んでいるのです」(入山氏)。

 では、世界標準の経営学はどう違うのか。一言で言えば「科学化」だ。「ビジネスを科学的に分析して、普遍的な法則や理論を導き出し、統計解析によってチェックする。これが世界標準の経営学です」と入山氏は説明する。