国会答弁の場で最近よく聞かれる「忖度(そんたく)」という言葉。強い会社の変革者が集まり、本気で議論する「日経ITイノベーターズ」が2016年9月28日に開催した定例会議では、企業の生産性を下げる要因の一つとして、「余計な忖度」が話題になった。

 「日経ITイノベーターズ」が2016年9月28日に開催した定例会議のディスカッションテーマは「働き方改革」。働き方を変えるには、「根幹的な企業文化を変えること」が大事だという意見が出た。

 企業文化を大きく左右するのは経営トップの意思。当然だが、働き方改革に対するメッセージを経営トップが明確に打ち出すことは重要だ。アステラス製薬の須田真也情報システム部長がこんな事例を語った。

アステラス製薬の須田真也氏
アステラス製薬の須田真也氏
写真:古立 康三
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 「当社では2015年夏に経営トップが働き方改革を本気でやるという明確なメッセージを出しました。10年後の就活生がアステラスで働きたいと思えるような会社に今からしなければ、企業として存続できないという強い危機感があります。そこで、経営トップのメッセージを全従業員に広めるため、冊子を作って配りました。マネージャー向けと全従業員向けの2種類を作成しています」(須田氏)。

 経営トップやリーダーの思いはなかなか伝わらないもの。冊子などにして配付するのは、浸透させるためには有効だ。

 もう一つ、働き方改革の取り組みを須田氏は紹介した。「当社では月次で、全部署の残業時間や有給休暇の取得日数などのレポートを作成し、部門長に送っています。しかも、ランキング形式にしています。1位から最下位まで順に部署名が並んでいると、否が応でも部門長は意識するようになり、効率の良い仕事の仕方を部下に指示するようになります」と須田氏は語った。

 経営トップの意思を従業員に伝えるのとは逆に、従業員の考えを経営層が的確に把握することも重要だ。大鵬薬品工業の黒田尚執行役員信頼性保証本部長総括製造販売責任者は「従業員の意識を経営層が把握するため、アンケート調査をしました」と話す。

 大鵬薬品工業の約2500人の従業員のうち、約2200人が回答したという。「アンケート結果からは、経営側の説明が従業員に十分に行き届いていないことや、従業員の思いに会社が応えきれていないことが分かりました。このアンケートを前提に、2018年を目標に風土改革、業務プロセス改革、人事制度改革を進めようとしているところです」(黒田氏)。