人手不足が広がるなか、製造現場ではITを駆使して若手社員を即戦力に仕立て上げる取り組みが始まっている。東芝三菱電機産業システムは、作業手順書を電子化し、IoT(モノのインターネット)でセル生産を実現する。

 東芝三菱電機産業システム(TMEIC、東京・中央)の府中工場では、電力変換装置のユニットの組み立て作業を、これまでのライン生産方式からセル生産方式に転換しようとしている。この取り組みで課題になるのが、作業員のスキルレベルだ。セル生産方式ではユニットが完成するまでの全作業工程を、1人の作業員が担当する。このため、作業員が覚えるべき作業手順は、ライン生産方式より格段に多い。

 「これまでは3~4種類の部品を取り付けられるスキルで十分だったが、セル生産方式では69工程全ての部品を組み付けるスキルが必要になる」と、宮崎聖パワーエレクトロニクスシステム事業部ドライブシステム部部長は話す。スキルが不十分なままセル生産方式に転換すると、品質に悪影響を与えてしまう。

 課題解決のため、同社はセル生産方式の作業を支援するシステム「デジセル」を構築した(図1)。作業員の目線とほぼ同じ高さにタッチパネル機能付きの液晶ディスプレイを設置し、画面に次にやるべき作業手順を表示する。作業員は、表示される手順に従って作業を進めれば、1人で全作業工程を完了できる。

図1 東芝三菱電機産業システムが導入した「デジセル」
図1 東芝三菱電機産業システムが導入した「デジセル」
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 ただし、表示する作業手順が分かりづらいと、作業員が判断できない。デジセルでは、写真やイラストなどを活用して直感的に理解できるように工夫している。

 例えば、基板をユニットケースに取り付ける作業手順では、基板を取り付けた状態の写真を表示している。作業員は写真と同じ状態になるように基板を配置すればよい。ユニットケースに配置した基板はねじで固定するが、ねじの取り付け位置の指示にも写真を活用し、赤色やオレンジ色の丸マークで指示している。固定する方法が異なるときは、丸マークの色を使い分けている。

 作業員がスムーズに作業できるよう表記も統一した。例えば、ねじは作業台の前に設置されたパーツコンテナから取り出すが、パーツコンテナには様々なサイズや種類のねじが保管されていて、作業員が間違いかねない。そこで、パーツコンテナに貼り付けたラベルの表記と合わせて、作業手順の画面で指示する。

 作業員が、正しい電動工具を、正しい用法で利用できるようにガイダンスする工夫も施す。IoT(モノのインターネット)によって電動工具の電源と作業手順を連携させ、利用すべき電動工具だけを動作させる。電動工具のトルク値とも連携し、所定のトルク値に達すると、締め付けを自動停止させる。