AI(人工知能)やIoT(Internet of Things)、ビッグデータ処理などパブリッククラウドを利用して構築するシステムの開発では、既存の業務システムとは異なる開発方法が必要になる、いわゆる「イノベーション型のプロジェクト(案件)」だ。

 こうしたイノベーション型のシステムにはパブリッククラウドを利用するケースが増えている。「オンプレミスのサーバーの代替としてクラウドを見ると、コストや運用の手間の削減に目を向けがちになる。だが今のクラウドはオンプレミスでは開発できなかったり、開発に多額の費用がかかっていたりするシステムの開発基盤になっている」。日本IBMの紫関昭光氏(IBMクラウド事業本部クラウド事業統括 IBMクラウドマイスター エグゼクティブITスペシャリスト)はこう説明する。

 その代表例が、多くのパブリッククラウドが提供する機械学習の機能だ。AWS、日本マイクロソフト、Google、そして日本IBMとそれぞれが既に機械学習の機能をクラウドサービスとして提供している。

表●クラウドサービスとして利用可能な関連サービスの例
表●クラウドサービスとして利用可能な関連サービスの例
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 Googleの場合、機械学習モデルを構築するための機能「Google Cloud Machine Learning」のほかに、学習済みの機能をAPIとして提供するサービスも用意している。画像を学習して、不適切な画像や、画像の表情などを読み取る機能を提供する「Vision API」や、音声をテキストデータに変換する「Speech API」、言語の翻訳機能を提供する「Translate API」などだ。

 日本IBMもコグニティブ(認知)コンピューティング「Watson」をAPI経由で利用できるサービス「Watson Developer Cloud」を、PaaSである「Bluemix」上で提供。単語や文章を分析することで顧客を判別する「Tone Analyzer」や、画像を分類する「Visual Recognition」といった機能を用意している。

インフラのクラウド化の先を見る

 こうした機械学習の分野は、オンプレミスを前提とした従来型のシステムでは構築が難しい。ガートナー ジャパンの亦賀忠明氏(バイスプレジデント 兼 最上級アナリスト)は「クラウドファースト企業は、単にインフラをクラウド化しているのではなく、こうした機能の活用を見据えて、クラウド化を推進している」と説明する。

 クラウドでなければ開発できない新たな分野では、「採用する開発手法も大きく変わる」と日本IBMの紫関氏はみる。

 サービスの組み合わせでシステムを開発できるからこそ、「ITエンジニアは、イチから開発するという発想ではなく、既存製品やサービスを組み合わせて作る発想が必要になる」と紫関氏は話す。

 短期間でプロトタイプを繰り返し開発していくスタイルの開発を実践できたり、クラウドサービスの知識が豊富で組み合わせて活用できたりするITエンジニアが求められる。

 日本IBMではBluemixを利用してイノベーション型のプロジェクトを支援するエンジニアを育成している。主に20~40代のエンジニアで、OpenStackなどのオープン技術などの技術的な側面に加え、ビジネスリーダーとしての教育も進めているという。

 紫関氏は「クラウドならではのシステム開発では、これまでの分業型のSIよりも、1人のエンジニアがビジネスの要件から実装をこなせるフルスタック化がより求められる」と指摘する。

 今後、クラウドを検討する際には、「クラウドでなければ出来ない」システムの開発と、開発を担当するITエンジニアの確保が検討事項になってくる。