ITベンダーA社の山田さんが参加するプロジェクトは基本設計が完了し、詳細設計に入りました。新メンバーが加わることになり、山田さんのチームには社内表彰を受けるなど優秀と呼び声高い若手の川田さんがアサインされました。「これで我々はばっちりだ」と山田さんは嬉しく思いました。

 ユーザー企業とのキックオフミーティングの日、新メンバーの紹介が始まりました。先輩の在田さんのチームに加わった本田さんが自己紹介すると「君は若いのに××の技術に詳しいんだってね。期待しているよ!」など、ユーザーのキーパーソンから声がかかりました。注目を浴びています。

 対照的に、川田さんの自己紹介はあまり盛り上がりませんでした。ミーティング終了後には「川田さん、緊張していたみたいだけど、大丈夫?」とユーザーから言われてしまいました。

 山田さんは在田先輩に話しかけました。「川田のほうが優秀なのに、先方は本田を気に入ったみたいですね」

 すると在田さんは眉を寄せて逆に聞き返してきました。

「川田の強みや良さを事前にちゃんとお客様に伝えたのか?」

「えっ。そんなことは川田が自己紹介のときに自分で言えばいいんじゃないですか?」

 山田さんは戸惑いを隠せません。

 プレゼンスを向上させる方法は、自分の口でアピールすることだけではありません。むしろ、自分で「私は優秀で…」といくら強調しても、「自信過剰では?」と相手に思われてしまうリスクさえあります。

 そこで考えたいのが、他の人の力を借りることです。実際、他の人に伝えてもらったほうがプレゼンス向上に効果的な場合は多くあります。

 自分の良さを嫌味にならずに伝えてくれる存在を、「スポークスパーソン」と呼びます。スポークスパーソンは元々、広報担当者や政府の報道担当という意味です。“広告塔”と考えてもよいかもしれません。

 スポークスパーソンの存在は、特に初めての場に登場するときなどに効果的です。例えば講演する前に、スポークスパーソンを通じて自分のアピールポイントを来場者に伝えておけば、あなたのプレゼンスは講演する前から高くなります。その状態で登場すると、メッセージを前向きに受け止めてもらえ、ぐっと講演しやすくなります。

 スポークスパーソンが見つからないときは、プロフィールを冊子にして事前に配布するとよいでしょう。冊子という媒体を広告塔にする発想です。