ITベンダーA社の要件定義チームの一員である山田さん。ユーザー企業B社のプロジェクトで懸案になっている要件を、鈴木経理課長に納得してもらう必要に迫られています。鈴木課長の要求を取り入れると、工数が大きく膨らむ恐れが強いからです。山田さんは代替案を準備し、提案しました。

「鈴木課長、先日の要求、こちらの方法ではいかがですか? これなら…」
「無理無理。ユーザーが納得しない」

 ろくに話を聞いてもらえなかった山田さんは、チームの先輩の在田さんに相談しました。

「そうか。俺が掛け合ってみよう」

 後日のミーティング。今度は在田さんが提案しました。

「鈴木さん、この方法にすれば十分にご要望に応えられますよ」
「なるほどね。さすが在田さんだ」

 山田さんは驚きました。在田さんも同じ提案をしたのに、鈴木課長のうなずき具合が全く違ったからです。

 「同じ提案内容であれば、誰が言っても結果は同じ」と思ってはいませんか。残念ながら、答えはNoです。

 米Googleは2014年までに、「正しい意思決定ができているか」を検証する実験をしました。全く同じ提案内容を、同じように説明できるように訓練した2人が社員にプレゼンテーションし、採否に違いが出るかどうかを調べたのです。結果、採否には大きな開きが出ました。「誰が言うか」によって、提案の採否が左右されたわけです。

 理不尽に感じるかもしれません。しかし、あなたも話を聞くときに「この人は信頼できるか」と考えていませんか。人は一般に、相手を値踏みしながら話を聞くものなのです。