筆者は中途入社のSEやプロジェクトマネジャーに、コンサルティングができるようになってもらうための研修を行っている。この研修では、2週間以上かけた演習の最後の仕上げで、提案書を作る課題に取り組んでもらう。仮想の顧客側のマネジャーへのヒアリング結果を基に、提案書を書くというものである。

 提案書にはどんなことを書かないといけないかは説明してあるが、経験のない人には難しく、入社した人が最初にぶつかる壁となる。なかでも一番苦労するのが自社の強みを示すところだ。多くの人は、自社の特徴を示した後で次のような記述をする。「弊社には多数の実績があります」「弊社には高い技術力があります」「弊社のプロジェクトマネジメントに定評があります」。

 しかし、これではだめなのだ。競合相手も、この程度のことは書ける。顧客が自分たちの主張だけを信じて、強みを理解してくれるはずがないのだ。

 筆者が前職で提案を始めたばかりの頃、会社で最も提案がうまいと言われていた人に、強みの伝え方の極意を聞いたことがある。今でも鮮明に覚えているのだが、その人はこう言ったのだ。「提案書を作るときは、『私を欲しくないですか』というメッセージを伝えるんです」。それ以降、私の提案準備における基本原理になっている。

 筆者の前職や今の会社は規模が大きくないので、とりわけ個人の力の占める割合が多いのだが、実は大手の企業にとってもこの原理は変わらない。

 ユーザー企業も気付いている。会社の大きさとか、名前が通っているかどうかは開発の成否には関係がないことを。どんなに名の通った会社でも、担当するメンバーのスキルが低ければ、開発はうまく進まない。逆に小さな会社であっても、しっかりしたスタッフがいれば安心して任せられる。