顧客との接点として、重要性が高まるのがコールセンター。契約後の問い合わせやクレームにきめ細かく対応してこそ、顧客のロイヤルティが高まる。だが人手不足が厳しい折、熟練のオペレーターを十分に確保するのは難しい。そこで損保ジャパン日本興亜は、コールセンターに人工知能(AI)を導入。顧客の「聞きたいこと」を素早く調べ、電話の保留時間を1割減らした。
「保険について聞きたいことがあるんですが」─。
損保ジャパン日本興亜のコールセンターには、年間100万本を超える電話が寄せられる。その多くは顧客からの問い合わせだ。自分の契約内容に関わるものもあれば、「海外旅行保険を空港で申し込める?」といった商品、サービスに関する質問まで、内容は多岐に渡る。
問い合わせに対応するオペレーターは、FAQ(よくある質問と回答)のデータベースを検索し、顧客の求める答えを探す。顧客との通話をいったん保留にし、キーワードを入力するが、その効率はオペレーターによって様々。経験の浅いオペレーターは最適なキーワードが指定できず、検索を何度も繰り返してしまう。
その間ずっと電話は保留状態。やっとFAQを探し出して回答しても「知りたかったのはそれではない」と言われれば再び電話を保留にし、検索に臨まなくてはいけない。顧客を待たせる時間が長引くと、満足度に悪影響を与え、契約を更新してもらえないリスクも生まれる。
長年の課題を解決するため、損保ジャパン日本興亜はデジタルに解を求めた。それがAIの活用だ。
フィードバックでAIを「賢く」
2016年2月に導入した「自動知識支援システム」は、音声認識技術と深層学習機能を備える。オペレーターが電話を受けると、音声認識技術を使って会話の内容をテキスト化。ほぼリアルタイムで、オペレーターのパソコンの画面に映し出す。認識精度は90%を超える。
「ロードアシスタンスについて確認したくて電話したんですが…」
「お問い合わせありがとうございます。ロードアシスタンスのどのような内容についてでしょうか?」
オペレーターの画面の左半分には今交わしたばかりの会話がテキスト表示される。同時に、右半分には「ロードアシスタンス」に関するいくつかのFAQが表示される。自動知識支援システムが会話の内容からキーワードを抽出し、FAQのデータベースを検索するのだ。
ただし、検索結果をそのままパソコンの画面に表示するわけではない。システムにはAIが組み込んであり、AIが会話の内容を踏まえて最適だと判断したFAQを厳選し、関連性の高い順に並べて表示する。
「これまではベテランと新人で応対にばらつきが出ていた。経験や知識に依存することなくお客様応対を標準化したかった」。丸山直俊カスタマーコミュニケーション企画部企画グループ課長兼グループリーダーは、導入の経緯をこう説明する。
とは言え、導入当初はAIが的外れなFAQを選ぶことも少なくなかった。オペレーターと同様、AIも「未経験者」はなかなか顧客の意図を読み切れなかったのだ。
そこでオペレーターは応対が終わるたびに、表示されたFAQが「役立った」「役立たなかった」を評価し、システムにフィードバックする。この評価をAIが学習し、次第に会話の内容を踏まえて最適なFAQを表示できるようになった。現在の正答率は8割強。新人もベテランも効率が上がり、電話の保留時間は1割減った。
顧客の感情をAIで判別
損保ジャパン日本興亜は、顧客の感情をAIで判定する取り組みも進めている。まだ研究段階だが、「お客様が喜んでいるのか怒っているのかが分かれば、オペレーターの教育に生かせる」と、錦晃彦カスタマーコミュニケーション企画部企画グループ副長は考えている。
将来はAIによる完全な自動応答も視野に入れる。丸山課長兼グループリーダーは、「簡単な問い合わせはAIで応対するといったように、デジタル技術と人が融合した体制を整えることで品質と生産性を高めていきたい」と語る。