デジタル技術の進歩が、既存の業務を一変させてしまうことがある。損害保険ジャパン日本興亜が事故調査のツールとして2015年3月に導入したドローンが、まさにそれだった。事故や災害の現場での測量作業が、ほぼゼロになった。代わりにドローンが膨大なデータを収集する。

 道路の片側は緩やかな斜面になっていて、その先にスキー場のゲレンデが広がっている。その道路を走行していた車が脱輪し、そのまま斜面に突っ込んだ。季節は夏で雪はなかったが、車はハンドルの制御が効かず、ゲレンデの手前に並ぶ木立に車体を激しくぶつけながらも走行。さらに、滑り落ちるようにしてゲレンデの下にある駐車場にたどり着いた。ところが、車はそこでも止まらず、その先にある崖から転落。崖下でようやく、停止した─。

 これは、事故現場の目撃者が撮影した映像でも、その目撃者が証言した言葉でもない。ドローンが事故現場を飛び、上空から収集した地形データを使って、3次元のシミレーションソフトで再現したものだ。パソコンの画面には、事故の様子が精緻に再現されている。しかも、スキー場の上の道路から見下ろしたり、逆にスキー場の下の駐車場から見上げたりと、見る角度を自由に変えながら再現できる。

事故現場をドローンで空撮するだけで、現場の状況を3次元で再現できるようになった
事故現場をドローンで空撮するだけで、現場の状況を3次元で再現できるようになった
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 最初に脱輪してからゲレンデを走り抜け、駐車場で転落してさらに崖下で停止するまで、その距離は1kmを超える。それほど長距離の動きを精緻に再現するには、「ドローンを使うこと以外に方法はない」と、損保ジャパン日本興亜の高橋良仁損害調査企画室第一グループ技術部長は言い切る。

現場での測量作業は不要

 もちろん、ドローンを導入する以前から、調査員は巻き尺や傾斜計といった測量機器を駆使して、現場の状況を詳細に把握してきた。だが、手作業なので詳細に把握するには時間がかかった。しかも、収集できるデータは測定したポイントに限られる。シミュレーションソフトに読み込んでも、事故現場の全体を再現することはできない。測定した場所だけ再現できるが、それも積み木のように平らな斜面や平面を組み合わせたレベルで、本物の地形とはほど遠かった。