安定したITインフラを提供するために、技術者の「現場力」が求められている。ITインフラ技術者がどのように現場力を磨いてきたのか、その生の声を聞く。今回登場するITインフラエンジニアは、トライアングルエレクトロニクス代表の久保 幸夫さん。IT技術者養成講座の講師を務める。

(聞き手は久保田 浩=日経NETWORK)


IT技術者養成講座講師
IT技術者養成講座講師
私の履歴書:学生時代は電子工学を専攻。卒業後、鉄道系システムの保守会社に入社。独立後、IT技術者教育の講師やプログラムの受託開発などを行い、現在に至る。

これまでどのような勉強をしてきたか、教えてください。

 学生時代は電子工学を学んでいました。まだ当時は情報系やネットワーク系の学科はありませんでした。電子工学のなかで、プログラム系を学んだりしていた時代です。8ビットマイコンがブレークした頃に大学に入学しました。

 通信について学んだのは、就職してからです。鉄道系システムの保守やメンテナンスをする会社に就職しました。まだスタンドアローンのシステムが全盛の時代で、パンチテープなどを使ってメインコンピュータにデータやプログラムを読み込ませていました。その後、集計装置や磁気カードなどが出てきて、段々とネットワーク化が進んでいきました。TCP/IPやイーサネットなどが標準的になる前の時代です。

 その頃上司から、そろそろネットワークの時代を見据えて私に勉強させようということになったようです。私が担当としてネットワークの勉強をすることになったのです。

いい上司ですね。

 勉強のために予算を組んでくれたんでしょうね。機材などを買う経費を取ってくれました。当時はPC/AT互換機(DOS/V機)やNECのPC-98などのパソコンが出てきていました。それにLANボードを増設してNetWare Liteをインストールし、自分でネットワークの勉強を始めました。まだ標準ではパソコンにLANの機能がない時代です。別売のボードを買ってきてつなぐのです。

 設定では苦労しましたね。今みたいにネットワークを勉強するための本もない時代です。設定項目でどれを選んだらいいかがわからない。仕方がないので、NetWareを開発したノベルのサポート係に電話をして聞くわけです。

 しかし、先方の言っていることを完璧には理解できない。ノベルのサポート係の人は「MACアドレスを見てください」と言うのですが、そのMACアドレスを、こちらはMacintoshのアドレスだと思っているわけです。なので、「いえ、Macはつながっていないですよ」とか真面目に答えたりして。ちんぷんかんぷんです(笑)。

 本屋に行っても、勉強のための本というのが少なかった。電話系の本かNetWareの本しかない。

なるほど。通信といえばNTT、というか電話の世界だというのが当たり前の時代ですものね。インターネットの通信なんて、一般人にはまだ考えもおよばない頃です。

 95年にWindows 95が販売されると、インターネットが普及し始めて、本屋などでもインターネットの本が出てきました。また、インターネット上でネットワークや通信の情報を探して読むようにもなりました。

 98年頃には、インターネットや草の根BBS(仲間うちで使う小規模な電子掲示板)やメーリングリストなどで知り合った技術者のコミュニティに出入りしていました。このときの人脈は、今の仕事に活きています。当時ちょうど、情報処理技術者試験のネットワークスペシャリスト試験を受けようと思っていて、ネット上のコミュニティやオフ会で、いろんな人にネットワーク技術について教えてもらったりしていました。

 2001年に独立して、ネットワークを含むIT技術教育の講師の仕事を始めました。このほか、プログラムを含む受託開発なども始めて今に至ります。数年前にトライアングルエレクトロニクスという会社を立ち上げました。

 技術者のコミュニティに参加したことで、ネットワークの知識が増えたのは間違いないですね。コミュニティに参加することは、自分の知識を増やしたり、確認したりするには大事だと思います。