自動車業界には今、自動運転やコネクテッドカーの波が訪れている。このうねりに伴って、通信業界には大きなチャンスがやって来ようとしている。コネクテッドカー産業の到来は何をもたらすのか。今回は前回に引き続き、コネクテッドカーに求められる通信の要件を整理し、通信事業者にとっての鉱脈を探る。

 前回の記事で、コネクテッドカーで通信が活躍する分野を5つに整理し、それぞれ通信の要件をピックアップした。具体的には、(1)テレマティクス(車両データ収集)、(2)インフォテインメント、(3)自動運転アシスト(ダイナミックマップ)、(4)自動運転アシスト(V2X)、(5)新たなモビリティーサービスーーの5分野だ。今回は(3)(4)(5)について解説する。

自動運転アシスト(ダイナミックマップ)
効率的な配信にMECを活用、ルール化へ模索続く

 レベル3以降の自動運転システムには、3次元高精細マップが必須と言われる。内閣府SIPの議論では、3次元高精細マップに様々な情報を重畳したダイナミックマップについて、協調領域と競争領域の棲み分けや、静的情報に含めるデータの定義などが整理されている。

 このようなダイナミックマップを車に届けるためには通信が必須になる。しかしその配信方式については「内閣府SIPでは、各社が取り組む競争領域として議論の範疇外になっている」と、NTTドコモの新間寛太郎モバイルデザイン推進担当主査は語る。

 ただ大容量のダイナミックマップを国内に存在する8000万台もの車が利用すると、ネットワークに多大な負荷がかかる。総務省はこのような点に問題意識を持ち、2016年度から3カ年計画としてダイナミックマップの配信に関する実証実験を案件化。この実証実験の委託先としてNTTドコモとパスコを選定した。

 NTTドコモでこの実証実験を担当する新間主査は、ダイナミックマップの配信について、「大容量のデータをいかに効率的に届けるのか、情報の鮮度をいかに高めるのかという2つの課題がある」と語る。

 そこで今年度の実証実験では(1)効率的な配信システムのための机上検討、(2)内閣府SIPの静的情報の定義を実際のダイナミックマップのデータベースとして実装、携帯網を使って車載機まで届ける送受信システムを構築、(3)大学と協力し、商用LTE網を使って横須賀YRP地区で自動運転システムを走らせる―という3つの取り組みを進めた。

 最も肝心な効率的な配信システムとしては、「MEC(Mobile Edge Computing)を使って、必要な地域に限った情報を配信する仕組みを検討している」(NTTドコモの末次光モバイルデザイン推進担当主査)という。

 具体的には図1のような仕組みになる。自動運転に必要なダイナミックマップは、全国の情報が必ずしも必要ない。そこで基地局の近傍にエッジサーバーを用意。エッジサーバーに広域ダイナミックマップのサブセットとなる当該エリアの狭域ダイナミックマップを用意し、配下の車に配信する仕組みとした。

図1●効率的なダイナミックマップの配信にMECを利用
図1●効率的なダイナミックマップの配信にMECを利用
NTTドコモとパスコが総務省の委託として実施している実証実験の概要を示した。効率的なダイナミックマップの配信にMEC(Mobile Edge Computing)の活用を検討している。
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 準静的情報や準動的情報などは、情報の賞味期限が短く、有効範囲が狭い特徴がある。これらの情報については、センター側のデータベースに問い合わせることなく、エッジサーバーにてデータベースを更新し、配信する仕組みも検討している。もっともエリアの分け方や、レイヤーに分けたダイナミックマップの配信など、効率的な配信に向けては、まだ模索中の部分も多いという。

 2017年度は、準静的情報や準動的情報の配信も進める予定。実はこのようなダイナミックマップの通信の要件については「諸外国でもほとんど議論が進んでおらず、総務省のこの実証実験が先行している」(新間主査)。総務省は、3カ年の実証実験を踏まえて、ガイドライン化を考えているようだ。

議論の範疇外になっている▲
内閣府SIPのダイナミックマップの議論では、静的情報(~1カ月)、準静的情報(~1時間)、準動的情報(~1分)、動的情報(~1秒)の4つのレイヤーを定義している。動的情報についてはV2Xなどの車車間通信でカバーする議論が進んでいるが、残る3つのレイヤーの通信方式は議論されていないという。
大容量のダイナミックマップ▲
本誌の推定で、全国の車道をデータ化した場合、数テラバイト規模になる見込み。
MEC(Mobi l e Edge Computing)▲
ETSI(欧州電気通信標準化機構)のISG(Industry Specification Group)で2014年から標準化の議論が始まっている。