自動車業界には今、自動運転やコネクテッドカーの波が訪れている。このうねりに伴って、通信業界には大きなチャンスがやって来ようとしている。コネクテッドカー産業の到来は何をもたらすのか。今回は、コネクテッドカーに求められる通信の要件を整理し、通信事業者にとっての鉱脈を探る。

 安全性を何よりも大事にする自動車業界が、「走る・止まる・曲がる」といった自動車の基本機能にベストエフォート型の携帯電話網を活用することはほぼ無いと考えてよい。しかしそれら以外の部分、例えば車両データの収集から安全性を高める機能、新たなモビリティーサービスの創出といった部分まで、通信が活躍できる分野は幅広い。

 そこでコネクテッドカーで通信が活躍する分野を整理し、それぞれ通信の要件をピックアップしてみた。すなわち、(1)テレマティクス(車両データ収集)、(2)インフォテインメント、(3)自動運転アシスト(ダイナミックマップ)、(4)自動運転アシスト(V2X)、(5)新たなモビリティーサービス、の5分野だ(表1)。

表1●コネクテッドカーの主要5分野と求められる通信の要件
野ごとに求められる帯域幅や信頼性、遅延などは異なる。
表1●コネクテッドカーの主要5分野と求められる通信の要件
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 例えば、(1)テレマティクス分野の場合、通信に求められる帯域幅はそれほど必要ない。しかし車両制御系のデータを収集しているため、信頼性や高いセキュリティが求められる。世界中に輸出される車の通信回線を一気通貫で運用するような仕組みも必要になる。車内のエンタテインメントなどの(2)インフォテインメント向け通信の場合、広帯域が求められるだろう。しかし信頼性や遅延についてはそれほどシビアではない。

 このように分野ごとに、通信に求められる要件はまちまちだ。

テレマティクス
グローバル対応と顧客ID管理が課題

 まずは(1)テレマティクス分野に求められる要件から、通信業界にとってのコネクテッドカーの鉱脈を探ろう。

 A.T.カーニーの吉川尚宏アジア太平洋パートナーは「かつて米国のゴールドラッシュで大きな利益を享受したのは、“ジーンズ”や“スコップ”を提供する業者だった。コネクテッドカー時代も、同様に周辺ビジネスに大きな鉱脈がある」と指摘する。自動車業界がコネクテッドカー対応で抱える周辺課題は数多く、そこに通信事業者のビジネスチャンスが数多く見える(図1)。

図1●自動車業界が抱える周辺課題が、コネクテッドカー時代の“ジーンズ”“スコップ”になる
図1●自動車業界が抱える周辺課題が、コネクテッドカー時代の“ジーンズ”“スコップ”になる
多くの自動車メーカーは顧客接点をディーラーに委ねているため、顧客基盤を持っていないという。コネクテッドカーには顧客ID基盤の構築が必須であり、その構築を手助けしていくビジネスも、通信業界にとって鉱脈となる。
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 まずはグローバル回線への対応だ。コネクテッドカーが採用する携帯電話網は、国ごとに事業者が分かれる。「誰かにまとめてグローバル回線を提供してほしいというニーズが非常に高い」(NTTドコモの斎藤担当部長)。ここで遠隔からプロファイルを書き換えられるeSIMや、米シスコが買収した米ジャスパーテクノロジーズのようなIoTプラットフォームを用いれば、このような自動車業界のニーズに応えられる。国内の携帯電話大手3社はこれらの仕組みを用いてグローバル回線を用意している。

帯域幅はそれほど必要ない▲
トヨタ自動車の場合、1台当たり約10Mバイトのデータを収集しているという。
eSIM▲
Embedded SIM。一般的なSIMカードの形状、もしくは組み込み向けのIC パッケージの形状で、OTA (Over The Air)によるリモートSIMプロビジョニング(RSP)をサポートするSIM のこと。携帯電話の業界団体「GSMA」がeSIMの標準仕様を定めている。
国内の携帯電話大手3社はこれらの仕組みを用いて▲
NTTドコモはeSIMとジャスパーテクノロジーズ、KDDI はeSIM、ソフトバンクはジャスパーテクノロジーズの仕組みを用いて、グローバル回線への対応を進める。