自動車業界には今、自動運転やコネクテッドカーの波が訪れている。このうねりに伴って、通信業界には大きなチャンスがやって来ようとしている。自動車業界向けビジネスがIoT(Internet of Things)分野で最大のビジネスと化しているからだ。コネクテッドカー産業の到来は何をもたらすのか。自動車業界、通信業界の最新動向を追う。

 ドイツのカール・ベンツやゴットリープ・ダイムラーらによって19世紀末に誕生したエンジン駆動の自動車。130年超の歴史を持つ自動車産業がここに来て、誕生以来、最大の変化に直面している。

 「ACES」──。自動車産業を襲う変化の波は、それぞれの頭文字を取って、このように呼ばれることがある。すなわち「自動化(Autonomous)」「コネクテッド(Connected)」「電気化(Electric Vehicle)」「シェアリング(Sharing)」という4つである(図1)。

図1●自動車業界を揺るがす「ACES」の波
図1●自動車業界を揺るがす「ACES」の波
自動化(Autonomous)、コネクテッド(Connected)、電気化(Electric Vehicle)、シェアリング(Sharing)の略である。この4つの波によって、自動車業界は誕生以来の変革が訪れている。通信視点で見れば、IoTがもたらす変化そのものでもあり、通信業界にとって大きなビジネスチャンスとなる。 
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 A.T.カーニーで自動車業界向けコンサルティングに従事する佐藤有マネージャーは、このような変化の波によって、「自動車産業の構造が変わることはもちろん、人の住み方や移動時間の使い方も変わる。周辺産業を取り込んだ、新たなモビリティー産業が生まれる」と語る。

 このような新たなモビリティー産業を、ここでは「コネクテッドカー産業」と呼ぶ。コネクテッドカー産業に関係するのは、自動車産業や物流産業に加え、コネクテッドカーには欠かせない携帯電話事業者、不動産開発業者、コンテンツプロバイダーなど多岐にわたる。携帯電話事業者もこのような変化を捉え、自動車業界向けビジネスを新たな収益の柱にすべく、アクセルを踏み始めた。

人の住み方や物流も大きく変わる

 つながるクルマであるコネクテッドカー、そして、その延長技術である自動運転が実現した変化を想像してみると、コネクテッドカー産業のインパクトが見えてくる。

 自動運転の実現によってドライバーが運転する必要がなくなれば、例えば仕事をしながらの移動が可能になる。現在は職場から1時間内程度がおよその通勤圏だが、「さらに遠くのエリアから通勤する人も出てくる」とA.T.カーニーの佐藤マネージャーは語る。

 移動時間中の仕事も可能になるだろう。移動中の車内がリビング空間になれば、自動運転向けのコンテンツ配信といった新たなコンテンツビジネスが生まれるかもしれない。

 自動車を移動手段として使う物流産業も、大きな変化を遂げるだろう。物流コストの大幅な削減や効率的な配達手段によって、今よりも安いコストで短時間でモノが届くようになる。人の購買行動も大きく変化しそうだ。

 自動運転によって、自動車を所有する意味も薄れる。そうなると所有から利用の流れが加速する。将来的には自動車販売が3割ほど減るというレポートもある。自動車産業にとっては死活問題だ。

 ざっと考えただけでもコネクテッドカー産業は、様々な周辺産業を巻き込んでこれだけの変化をもたらす。国内の自動車産業の市場規模は約50兆円。言うまでもなく日本の基幹産業だ。そんな自動車メーカーを頂点とした産業構造が変わり、収益の源泉が周辺業界を含めて移り変わる可能性が見える。