格安スマホの先駆けとなった「イオンスマホ」の登場から3年が経過した。MVNO(仮想移動体通信事業者)の契約数は倍増する一方、「Y!mobile」や「UQ mobile」といったMNO(移動体通信事業者)のサブブランドの攻勢もあり、市場は混沌としている。日経コミュニケーション/テレコムインサイド編集部が、座談会形式でMVNOの今後を展望した。

(進行は加藤 雅浩=日経コミュニケーション編集長)


座談会もそろそろ終盤ということで、格安スマホを提供するMVNO(仮想移動体通信事業者)のこれからを見ていこうか。

記者A これからは導線が効いてくるでしょう。サービスでは差別化ができなくなったことから、顧客接点を拡大するために各社ともリアルショップの展開に乗り出しています。ただ収益面での課題は残ります。ARPU(契約当たり月刊平均収入)が1000円台のMVNOが店舗展開すると、かなり厳しい印象があります。

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記者B あるMVNOの内部資料を入手しましたが、数カ月単位で何段階も増速しています。同社のユーザー数から売上高を導き出し、売上高に占める帯域の支払いの割合を試算してみたところ、5割を大きく超えていました。NTTドコモから帯域を借りるMVNOの場合、10Mビット/秒当たり月額約79万円の帯域支払いに対し、ARPUを1000円として、このMVNOのユーザー数を掛け合わせると、売上高に占める帯域の支払いは実に6〜7割になりました。これを見ると、MVNOの収益性はかなり厳しく、誰のために働いているのか分からなくなるぐらいです。

記者C テレコムインサイドの連載で、業界関係者の助言を基に収益モデルの試算を示しましたが、NTTドコモなどMNOの支払い原価だけで1加入者当たり月500円を超えました。月1000円を切る値付けのサービスではなかなか利益を見込めないと思います。

図1●レイヤー2 接続のモデルで加入者当たりの原価を試算
図1●レイヤー2 接続のモデルで加入者当たりの原価を試算
NTTドコモの網にレイヤー2(L2) 接続した場合を想定して、ドコモの接続料やSIM 基本使用料に基づいて概算した。出所:テレコムインサイド2016年11月号
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記者A 店舗の運用は人件費や土地代だけでも、1店舗当たり月数十万円はかかります。だからとはいえ、オンラインだけの販売は限界があります。ユーザーの流入が見込める間に採算度外視でも取りに行かなければなりません。今が本当に勝負の時だと思います。

記者B 売上高の6〜7割を帯域の支払いに割かなければならない、このMVNOの厳しいビジネス構造の中で、ユーザー数を増やすということは一つの有効手段です。例えば楽天は、先日、3日間の速度制限を撤廃しましたが、ユーザーが増えてきたことで、統計多重的にヘビーユーザーの影響が弱まったことが理由とのことです。多様なユーザーを増やすことで、帯域を有効活用できるようになります。だからこそMVNE(Mobile Virtual Network Enabler)やMVNA(Mobile Virtual Network Aggregator)といった事業構造は必ず求められます。ある程度、集約しなければ、成立しない事業モデルと言えます。

記者A MVNOの課題という側面では、Apple SIMやMicrosoft SIMのような事業形態を、中国ファーウェイや台湾ASUSなどのSIMロックフリー端末メーカーが投入してきた場合、MVNO市場に大きな影響を与えます。端末から選べる回線として、選択肢に上がらないMVNOはきつくなります。