「日本オラクルからは、システム更新を控えている顧客企業に対してパブリッククラウドの利用を勧めてほしいと言われている。しかし日本にデータセンター(DC)がなければ、当社として本格的に扱うのは難しいと考えている」。

 Oracle Database(DB)の導入パートナーである大手ITベンダーの担当者は今、頭を抱えている。年度末の現在、次期のビジネスプランを日本オラクルと共同で作成するタイミングが来ているが、日本オラクルが求めるようにパブリッククラウドのデータベースサービスを、日本企業に販売するのは難しいと判断しているからだ。

 「データベースをクラウドで利用する場合、セキュリティに加え、レイテンシー(遅延)を重視する顧客が多い。Oracle DBをパブリッククラウド上で利用したいというニーズはあるだろうが、海外のDCから利用してもいいと考える顧客は少ないのではないか」。大手ITベンダーの担当者はこう考え、日本オラクルが求めるパブリッククラウドの販売に、どのように対応するか悩んでいる。

Oracle DBの新版もクラウドファースト

 大手ITベンダーの担当者が悩むように今、米Oracleがクラウドシフトを進めるのに合わせ、日本オラクルもクラウドの販売に注力している。既存顧客が多く主力製品であるDBも例外ではない。

 米Oracleが提供するデータベースのクラウドサービスは3種類ある。パブリッククラウドの「Oracle Cloud」、顧客企業のDCにクラウド専用機を設置し、日本オラクルが管理する「Cloud at Customer」、そして顧客企業がクラウド専用機やデータベース専用機を購入して自らのDCに設置するプライベートクラウド型だ。

 米Oracleのクラウドシフトの象徴の一つが、Oracle DBの2013年6月以来、約3年半年振りの新版となる「12c Release2(12.2)」をクラウドファーストで提供したことだ。米Oracleは12.2のパブリッククラウド版を2016年9月に開始。その後、DB専用機「Oracle Exadata」向けを2017年2月に、そしてLinuxやSolaris、Windows向けなどのオンプレミス版を2017年3月に提供を始めた。

 米Oracleと日本オラクルのクラウドシフトに対して、Oracle DBを導入しているユーザー企業やOracle DBを販売するパートナー企業は「様子見」の状態だ。

 「オンプレミスでOracle DBを利用している企業が、次のハードウエア更改のタイミングでクラウドへの移行を検討するケースは非常に多い」と冒頭の大手ITベンダーの担当者は話す。しかし移行先のクラウドとして、米Oracleや日本オラクルのクラウドサービスを具体的な選択肢として挙げるのは「まだ先になりそうだ」(大手ITベンダーのOracle担当者)との見方だ。

 特にパブリッククラウドの場合、日本国内にDCを持つAmazon Web Services(AWS)や米Microsoftの「Microsoft Azure」が先行する。こうした中、ここ数年以内にサーバー更改を迎える企業では、現状で日本にDCがないOracle Cloudを移行先として検討するのは難しいとみるOracle DBのパートナー企業は多い。