「Oracle Database(DB)は信頼性や可用性が高く、当社のシステムには欠かせない。しかしここ数年、保守料が右肩上がり。IT予算に占めるOracle DBの保守料金の割合が増えて困っている」。

 製造業A社のシステム部長は悩んでいた。会計や販売管理、生産管理など社内の主要なシステムは全てOracle DBを利用している。しかし開発時期はバラバラで、システム構築を依頼したITベンダーもシステムごとに異なっていた。Oracle DBのライセンスはシステム構築に合わせて、その都度購入している。システムごとに同じOracle DBとはいえ、バージョンは異なり、システム部門の保守作業も手間になっていた。

 「Oracle DBを使っているシステムの維持費用を削減したい」。こう考えたシステム部長は、安定稼働していて、今後も大きな業務機能の変更もないと想定できるシステムのデータベースの保守契約を止めようと考えて、該当システムの保守を依頼しているパートナーに相談した。

 ところがパートナーからの返事は、「米Oracleのサポートポリシー上、社内で利用しているすべてのOracle DBの保守契約を止めるか、継続するしかできません」というものだった。Oracle DBを利用しているシステムの中には、今後、大規模な変更の可能性があるシステムもある。全てのOracle DBの保守契約を止めるのは難しかった。

AWSへの移行が難しく

 そこでシステム部長は、社内システムのTCO(総所有コスト)の削減やシステム部員の保守作業の負担軽減を目指して、一部のシステムでパブリッククラウドの採用の検討を始めた。

 「Amazon Web Services(AWS)であればOracle DBの稼働実績があり、移行しやすいのではないか。まずは小規模なシステムから使ってみれば、リスクが少ないのではないか」。

 こう考えたシステム部長は、ITベンダーの営業担当者を呼び、社内では比較的小規模で、ハードウエアの保守期限がもうすぐ切れる購買システムを、AWSに移行するプロジェクトを2017年の半ばくらいから始めようと動き出した。

 その打ち合わせをしようとしていた2017年2月、AWSへの移行プロジェクトを依頼していたITベンダーの営業担当者から「大きな問題が発生した」との連絡が入った。その内容は、「米Oracleからライセンス体系の変更に関する通知があり、AWSでOracle DBを利用する場合、ライセンス費用が2倍になる可能性がある」というものだった。

 「またか」。システム部長はこの知らせを聞いて、余り驚かなかった。同様の経験があったからだ。

 2016年度、新規に構築しようとしていた売掛金処理のサブシステムに、Oracle DBの中で企業向けの最も安いライセンスである「Standard Edition One(SE1)」を使おうとしたところ、SE1の販売が終了し、新たに「Standard Edition 2(SE2)」に変わっていた。SE2はSE1の上位版のStandard Edition(SE)の後継になるため、SE1よりも豊富な機能が利用できる一方でライセンス料金は3倍になる。

 この時は結局、SE2を購入して新規システムを構築したが、サブシステムにSE1を利用することが多かったA社にとっては、SE1がなくなったのは痛手だった。

 「そろそろOracle DBの利用を見直すタイミングではないか」。システム部長はこう考え始めていた。