LINEは2017年3月2日、独自のクラウドAI(人工知能)基盤「Clova」の開発を発表した。2017年夏にはClova搭載のスマートスピーカー「WAVE」を日本と韓国で発売するほか、2017年冬にはスマートディスプレイ「FACE」の発売も予定している。

 音声AIを搭載するスマートスピーカーといえば、米アマゾン・ドット・コムの音声AI「Alexa」を搭載する「Amazon Echo」や、米グーグルの「Google Home」など、米大手IT企業がしのぎを削る激戦区だ。

 LINEはどのような研究開発戦略で、この新市場に挑むのか。LINE 取締役 CSMO(Chief Strategy and Marketing Officer)の舛田淳氏に聞いた。  

(聞き手は浅川 直輝、広田 望=日経コンピュータ


なぜ、音声AIという新分野への進出を決めたのか。

LINE 取締役 CSMOの舛田淳氏
LINE 取締役 CSMOの舛田淳氏
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 LINEはかねてより、人、モノ、サービスをつなげるインフラになることを目指していた。そのためのプラットフォームとして、Clovaのチャレンジは必須だった。

 プロジェクトを始めたきっかけは、2016年9月末ごろ、LINEの役員10数人が韓国の研修所に集まって合宿したことだ。2016年7月に上場したLINEをどのように成長させるか、長い時間をかけて議論した。流れの速いインターネットの世界で企業として生き残るには、一段高いチャレンジが求められる。そこで浮上したチャレンジの一つが、AIとIoT(インターネット・オブ・シングズ)を組み合わせた新たなプラットフォームの開発だった。

 私はAIを、バズワードを通り越した本質的なキーワードだと考えている。米アマゾン・ドット・コムが音声AIとしてAlexaを開発し、米グーグル、米マイクロソフト、米アップルもこの分野を攻めている。

 IoTデバイス単体ではイノベーションは起こらない。人間がモノとやり取りするには、会話ができるAIが必要になる。AIを通じてモノから情報を引き出し、学習させることで、初めてイノベーションが起こる。「AI+IoT」は、スマートフォンに次ぐメインストリームになる。スマホでいえば2008年か2009年ごろの黎明期が、AI+IoTにおける今だと考えている。この状況で、我々がチャレンジしない選択はない。

 そこでLINEの取締役である出澤(代表取締役社長 Chief Executive Officerの出澤剛氏)、シン(取締役 Chief Global Officerのシン・ジュンホ氏)、舛田の3人のうち、LINEをゼロから作ったシンと私が、もう一度“ゼロイチ”をやろうと考えた。二人が担当していた既存事業を出澤に委譲し、韓国NAVERとLINEの共同プロジェクトとしてClovaプロジェクトが始まった。

音声認識や会話エンジンの技術をゼロから開発するとなると、相当な開発リソースが必要になりそうだ。

 我々は既に、AIの要素技術をそれぞれの部門で保有している。例えば韓国NAVERは検索エンジンのほか、画像認識や音声認識、ニューラルネット翻訳などの自然言語処理に取り組んでいる。韓国では既にレベル3の自動運転を実現している。

 日本のLINEも画像認識や翻訳、広告マッチング用のディープラーニング技術など、パーツとしての技術は自社で開発していた。Clovaプロジェクトでは、まずこうした研究開発の成果を集約することから始めた。

ということは、かなりの人数を既存のLINE事業からプロジェクトに引き抜いたということだろうか。

 そう、かなり引き抜いた。技術者を数百人規模でプロジェクトに集約した。

 さらに今後、数百人規模で技術者を採用することを考えている。自然言語処理や機械学習に詳しく、かつプロダクトを世に問うことに情熱を注げる人材を積極的に取りたい。

 今回のプロジェクトは、今のLINEアプリほどの規模のプラットフォームをゼロから一気に作るようなもの。それくらいの人数は必要になる。画像/音声認識、意味理解、会話エンジン、レコメンドエンジン、コンテンツ配信など、一つひとつのモジュールをプラットフォームとしてパッケージ化する。原則として、全てのモジュールは自前で開発する。