スコープが爆発する「スコープクリープ」は、トラブルプロジェクトの典型である。日立ソリューションズの久保田常文氏(産業イノベーション事業部 産業ソリューション本部 第1部 部長)は、そんな問題プロジェクトを「YES/NO用語集」ともいうべき辞書で火消しした。

特定のチームでスコープクリープ

久保田 常文氏
久保田 常文氏
日立ソリューションズ 産業イノベーション事業部 産業ソリューション本部 第1部 部長

 エネルギー関連企業向けシステムの開発プロジェクトだった。2010年に始まり、2012年7月に結合テストのフェーズで頓挫した。ユーザーに確認してもらったところ、特定のサブシステムで仕様漏れが続出したのだ。

 例えば、入金処理では「前払い+残金後払い」など特殊な仕様が漏れていた。エネルギー業界では合併前の料金体系を契約ごとに引き継ぐ常識も見落としていた。見直した結果、機能はどんどん枝分かれしていった。

 別のサブシステムのリーダーだった久保田氏に、問題プロジェクトおよびプロジェクト全体を見るように伝えられた。

 「ユーザーと協議したはずなのに、なぜこんなに仕様が漏れているのか」。結合テストから要件定義への手戻りを余儀なくされる中、久保田氏はヒアリングやドキュメント確認を急いだ。その結果、トラブルの原因は「用語集の不備」にあることを確信した。

 用語集とは、業務フローをはじめとするあらゆるドキュメントに使用される業務用語集のこと。ベンダーとユーザーの共通言語となり、正しい理解を確認し合うコミュニケーションツールだ。火を噴いたプロジェクトでは、この用語集が他のサブシステムと比べて明らかに粗かったのだ。

 そこで久保田氏らは、用語集の整備に着手した。それが「YES/NO用語集」だ。YES/NO用語集とは、用語の内容を定義する際、必ずユーザーに「YES」「NO」で確認し、曖昧さを排除した用語集だ。