「ITに全く関係ない分野からITに飛び込んで活躍しているエンジニア」や「ITとIT以外の分野の境界を行き来しながら成果を上げているエンジニア」などを「越境エンジニア」と名付け、1カ月に一人ずつインタビューを掲載する。今月紹介するのは鹿野桂一郎氏。オーム社で数々の技術書の編集に携わった後、独立してラムダノートという技術書の出版社を立ち上げた。同氏は、書籍の制作に使っている自動組版ツールを自ら開発するというエンジニアの顔も持つ。今回は、ラムダノート設立の経緯と同社の取り組みを聞いた。

(聞き手は大森 敏行=日経NETWORK


前回から続く)

 私がオーム社でやっていた本の作り方は、会社から見れば特殊な作り方です。私しか作れない本が増えてきてしまった。会社からは「ほかの社員もできるようにしてほしい」と言われて広めようとしたのですが、うまくいきませんでした。私たちと一緒に仕事するときはバージョン管理などの仕組みを使ってくれるのですが、そうした社員も自分から使おうとはしなかった。

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 会社としては、「オーム社の編集者としてオーム社の本を作ってほしかった」のではないかと推測しています。外部からは「開発部が作った本」「鹿野が作った本」のように見えるようになってしまった。会社から直接「社員として本を作りなさい」と言われたわけではないですが、会社の組織改編や配属の変更から、そうしたメッセージを受け取りました。最初にたまたま配属された開発部で本を作るのはよかったのですが、他の部署に異動して従来のオーム社のやり方で本を作るのは自分にはつらかった。

 そこで会社を辞めて、一人で出版社を始めることにしました。バンドが音楽性の違いで解散し、ソロ活動を始めるようなものです。

「生きている本」を日本語化

 出版したい本を探していたとき、有力な候補としてあったのが「Bulletproof SSL and TLS」という書籍の翻訳です。オーム社にいたとき、私はSSL/TLSの書籍を2冊作りました。ただ、この分野は話題が多く、書籍の内容は既に古くなっています。そこで、最新のSSL/TLSを解説した本が世の中に必要だと思っていました。「新しい本を作るならSSL/TLSがいい」という思いがあったのです。