「ITに全く関係ない分野からITに飛び込んで活躍しているエンジニア」や「ITとIT以外の分野の境界を行き来しながら成果を上げているエンジニア」などを「越境エンジニア」と名付け、1カ月に一人ずつインタビューを掲載する。今月取り上げるのは村上原野(むらかみげんや)氏。縄文土器にインスピレーションを受けた創作を行っている陶芸家だ。同時にネットでは「狂える中3女子ボレロ村上」というハンドルネームでC++に詳しいプログラマーとしても知られている。最終回の今回は、縄文アートやプログラミングに対する思いなどを聞いた。

(聞き手は大森 敏行=日経NETWORK


前回から続く)

 私の作品の中には純粋にオブジェとして作ったものもありますが、土器として作ったものはすべて実際に使えます。猪風来美術館では春と秋の年2回、「縄文野焼き祭り」というイベントを開催しています。自分たちと陶芸教室の生徒の作品を一堂に焼き上げます。自分たちの作った縄文土器で実際に煮炊きをしたりといったこともしています。

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 2017年には、猪風来美術館の敷地に縄文式の竪穴式住居を建てました。そこで煮炊きをしたり、縄文時代に食べられていたであろうどんぐりなどの雑穀類を使って調理したりしています。

芸術と技術の間にある緊張関係

 縄文アートに取り組んでいて思うのは、自分の中では矛盾がないことでも、他の分野の人には理解してもらえない場合があるということです。芸術という分野は、様々な近代的な技術を活用している部分がある半面、技術に淘汰されてきたという部分もあります。わかりやすい例では、写実画の技術は、記録という意味では写真に淘汰されました。芸術と技術の関係には、親密な部分と敵対する部分があります。

 逆に情報技術に携わっている人の中には、「手仕事や伝統工芸の分野は非効率なものを無駄に引き継いでいる」という意識を持っている人もいます。そうした人と意識の溝を感じることも結構あります。