ICTを平和目的に積極的に活用しようという動き「PeaceTech」。その推進者の1人である金野索一氏が、PeaceTechのキーマンに会い、その取り組みや思いを語ってもらう。(菊池 隆裕=日経BPイノベーションICT研究所)



 日本植物燃料 代表取締役/ADM CEOの合田真氏は、長崎市に生まれ、高校まで長崎で過ごした。

 「原爆は僕らにとってすごく身近なことでした。ストレートに原爆とか原子力発電所ということではなく、そこに代表される不条理なことや悲惨なことが起こらないようにするにはどうしたらいいのだろうか、という問いが自分の原点だったと思います」(合田氏、以下同)。

日本植物燃料 代表取締役/ADM CEOの合田真氏
日本植物燃料 代表取締役/ADM CEOの合田真氏
(撮影:Edo Tech Global)
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 大学を中退後、最初に始めた仕事は飯を食べるための仕事だった。食べるに困らないだけでなく、儲かる案件も数多かった。しかし、いつしか「儲かる仕事はもういいや」と思うようになった。

IT導入のきっかけは「最大30%の現金不足」

 2001年ころだった。偶然、バイオ燃料を知って、のめり込んでいった。「限りある石油を奪い合うから戦争も起こる。であれば、限りない燃料を皆でうまく共有するモデルができれば、きっと世の中のためになると思った」という。先駆だった。その2年後にイラク戦争が起こって、にわかにバイオ燃料に注目が集まった。

当初のビジネスの中核だったバイオ燃料
当初のビジネスの中核だったバイオ燃料
(撮影:合田真、以下同じ)
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 バイオ燃料は当然、農業と切っても切り離せない。だから合田氏は農業に参入した。バイオ燃料のための苗木を育てている農民に米が余っていると言われれば、それも買い付け始めた。そうした農業商社としての機能も持ち始めたのだ。

 アフリカのモザンビークに進出したのは2007年。長く内戦が続いた国で、特に農村部は貧困に苦しんでいた。電化は1%台。そんな場所で、2012年からNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)の支援を受け、モザンビークのエネルギー省と共同で、「無電化の農村部に灯りを届ける」という事業を始めた。

 村人にヤトロファという植物の苗木を植えてもらう。その種を買い取って油を抽出し、その油で発電機を回して発電する。しかし、現地には電化製品がなく、電気の使い道がなかった。そこで充電式のランタンを揃え、必要に応じて安価で貸し出すようにしたのだ。あるいは拠点として設けたキオスクに冷蔵・冷凍設備を設け、冷たい飲み物を売るとともに、魚や肉の保存代行も商売にした。

 「もちろん、これらは大したお金になる話ではありません。あくまでも、電気を使った生活を体験してもらうことが目的でした」。ビジネスであると同時に、啓蒙であり、現地の生活事情の向上を考えたサービスだった。

 ところが問題が起こった。まずはパイロットケースとして3つの村にそれぞれキオスクを開いたのだが、現金の帳尻が合わないのだ。お釣りを間違えているとは思えなかった。多くなることなどなく、常に現金が足りない。しかも、それは誤差の範囲ではない。最大で何と30%も現金が少なくなる。そんな状況が常態化していた。

 「そこでNECと話し合って、電子マネーシステムを作りました。村人にはICカードを持ってもらい、キオスクにはタブレット端末とPOSを組み合わせたシステムを置いて、それで取り引きさせたのです。入金するときだけ現金が動くのですが、その後は現金を使わず、その都度精算せずによくしたわけです。すると、棚卸しをしても1%ほどの誤差で済むようになったのです」。

NECと共同で導入した電子マネーシステム
NECと共同で導入した電子マネーシステム
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村人に1枚ずつICカードを配布
村人に1枚ずつICカードを配布
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