ICTを平和目的に積極的に活用しようという動き「PeaceTech」が盛り上がりつつある。本連載は、そこで中心的な役割を果たしている日本人へのインタビューシリーズである。第1回は、PeaceTechの推進者の1人である金野索一氏に、PeaceTechが目指すもの、PeaceTechにかける想い、彼自身の取り組みなどを聞いた。

エドテックグローバル代表理事の金野索一氏
エドテックグローバル代表理事の金野索一氏
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これまで日本政策学校やアタッカーズ・ビジネススクールなど、政治家や起業家の人材育成事業を立ち上げてこられた金野さんですが、最近は「PeaceTech」を提唱されています。この PeaceTechがどのようなものか教えてください。

 PeaceTechを一言で言うなら、その多くが軍事目的で発達してきた人類の科学技術やICTを、戦争・貧困をなくし、社会課題解決のために使っていこうという考え方です。

 学生時代から、ベンチャービジネスや政治をやっていましたが、私の目指すところは変わっていなくて「この世界から、戦争や過度な貧困をなくすこと」でした。多くの政治家や事業家が、良い政治、良いビジネス、良い経済を目指していますが、「良い」は人によってさまざまで一致しない。ところが、悪い方は一致できます。戦争を増やそうとか、貧困で餓死してしまう人を増やすことを望む人は世界中を探してもほとんどいないでしょう。地球上の大半が戦争と飢餓のない世界を望んでいると思います。

 でも、戦争も餓死もなくならない。そこで、紛争国や経済的に貧しい人が多い国の人がたちが、世界リーダーになっていくと世界は変わるのではないかと考えました。そのために、利益を稼ぎだすビジネスの道具であり、同時に社会の透明性・双方向性を促進する政治的・社会的道具でもあるICTを使いこなす世界リーダーを紛争国・貧困国から輩出する。それが、世界平和を実現する「ICT×教育×平和=PeaceTech」の原点です。

 ですから、PeaceTechを推進するには、まず人を育てないといけない。

 高校の先輩にあたる宮沢賢治が「世界全体が幸福にならないうちは個人の幸福はあり得ない」という言葉を残していますが、日本を良くしていくのはもちろん大事ですが、世界の利益があったうえで日本の利益があるべきだろうと考えています。

 これには、吉田松蔭が興した松下村塾の考え方を現代にアレンジしたものと言えます。松下村塾のすごいところは、武士も農民も身分に関係のない教育の場を用意したことと、利益を考える組織の単位を「長州」でなく「国」にチェンジしたところなのです。現代で松下村塾の思想を実現しようとしたら、日本ではなく世界規模の利益を考えることではないでしょうか。

利益の単位を広げてみるというのは、面白い発想です。

 PeaceTechの考えは、社会学者のヨハン・ガルトゥングが提唱する「積極的平和」にも通じます。

 例えば、ルワンダ虐殺はフツ族とツチ族の対立で起こったと言われています。世界的ベストセラー「文明の崩壊」の中で著者のジャレド・ダイヤモンドは、虐殺の原因を2つの指摘をしています。1つは、虐殺が起こる前の数年間に天候不順が続き、食料が不足したこと。もう1つが1994年初頭、食品メジャー会社がコーヒー豆の買取価格を下げて価格暴落が起きたことです。これらがフツ族のツチ族への虐殺の間接的なトリガーとなった、という内容です。