いつも忙しくしているだけの人と仕事ができる人の違いはどこにあるのか。重要なポイントが、段取りと手際の良さだ。とにかく目の前の仕事から片付けていくのも大事だが、時間は有限。作業全体を見通して費やす時間の枠に作業をはめる「タイムボックス」で臨もう。

 「岸井、仕事の段取りで重要なことの一つはタイムボックスの考え方だ。目的と手段があって、それにどれだけ時間がかかるかではなく、まず決められた時間があって、その時間内で終わらせるための手段を選ぶこと、これが大事だ。分かるか?」

 経営企画室の西部和彦は自席の前に座っているシステム企画室の岸井雄介に言った。

 「理屈は分かるんですけど、具体的な事例でないと…」

 「そうか、では今から説明するからしっかり考えてほしい。ところで、なぜ仕事の段取りについて聞きたいんだ?」

 「部長です。大島部長に案件を説明したときに、『岸井は仕事の段取りが悪い』ってこぼされたんですよ」

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 岸井雄介は35歳、西日本の地方銀行A銀行のシステム企画室の課長補佐である。西部和彦は37歳。出向していたITコンサルティング会社から最近になって復帰し、現在は課長補佐として経営企画を担当している。

 岸井は現在、行内の「働き方改革」の実現に向けたシステム企画全般を担当している。具体的な検討事項が「定型業務の機械化」の企画だ。

 A銀行は既存の定型業務を徹底的に見直して、無駄な業務は廃止、冗長な業務は簡素化、重複業務は統合し、残る単純業務は人工知能(AI)やロボットに代替する方針を打ち出していた。

 A銀行には多くの定型業務があり、これを正社員と契約雇用者や時間雇用者がこなしている。しかし今後はA銀行の商圏では労働力の確保が難しくなる恐れがあった。そこでAIやロボット技術を使ったシステムで代替しようと考えたのである。

 岸井はこの案件について情報を集めながら、具体的な進め方を考えていた。ある時、情報システム部長の大島に「どのように考えているのか、どう進めていくのかを説明してくれ」と言われた。

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 「岸井、定型業務の機械化はどう考えてる?人は減るけどそれに応じて業務を減らすわけにはいかないから機械化するしかないと思うんだが、良い方法は考えたか?」

 「部長、セミナーやIT専門誌で調べましたけど、やはりAIを活用したRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)だと思います。人手の確保が今後はますます難しくなるなか、ロボットで自動処理することは、当行の経営方針にも地方の労働力減少にも合致します」

 「なるほど。具体的にはどう進めていくの?」

 「まずは情報収集ですね。それから行内の業務分析です。課題が出てきたら、それを詳細に検討する感じだと思います」

 「情報収集は大事だけど、誰に何を聞くのか決めてる?行内の業務分析については、どんな手順で、誰に何を分析してもらうんだろう。作業に費やす期間や労力を十分に確保できるかも気になるな。それと最終的にどのような形式でアウトプットをまとめるの?」

 「それは詳細内容ですから今の時点では分かりません。今後実施する基礎的な検討を経て明らかになっていくと思います」

 「詳しくはこれからっていう話が多いな。そんな状態で、この検討が意味のあるものになるんだろうか。現時点で結論は出ないかもしれない。しかし少なくとも、結論を出すためにどんな作業が必要か、作業の進め方や見通しは聞いておきたい。でないと内容の善し悪しは判断できないよ」

 「大島部長、おっしゃることは分かりますが、それは難しいです。この検討は当行にとって新しいもので行内にノウハウがありません。時間をかけて試行錯誤するしかないと思います。そう思いませんか?」

 「そうは思わないなぁ。岸井、君は経営企画室の西部に教えてもらって、いろいろな企画を高いレベルで検討していると聞いていた。でも少しがっかりだな」

 「そうはおっしゃいますが、新しいことなので知識の蓄積がないので…」

 「岸井、もういい。君は仕事の段取りが悪い。もっと真剣に考えて、西部に相談して彼にOKをもらってから説明してくれ」

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 大島部長にこう告げられた岸井はどう動いてよいか分からず、西部に「段取り」について相談した。