筆者は記者生活を今は亡き「日経バイト」で始めたので、いろいろなものごとを理解するには実際に触ってみるのが一番手っ取り早いと思っている。耳で聞いただけでは、その実体がつかみきれないし、誰かの言い分が本当に正しいのかを検証できるメリットもある。

 その一環として、ディープラーニングを理解するためにフレームワーク「TensorFlow」を少し試した。非常に面白い体験であり、ぜひとも使って理解してもらいたいとは思ったが、当然ながらそう簡単ではなかった。特に試した課題が為替の予測と難しく、ど素人がちょっとやっただけでうまいモデルを定義できれば誰も苦労はしない。

 まあ、当然の結果である。適切な予測モデルをそう簡単に作れるなら、ニューラルネットワークの研究者が不要になってしまう。

万能の学習アルゴリズムは存在しない

 その過程で調べていていろいろなところに記述されていたのが、「万能的な学習アルゴリズムは存在しない」ということだ。これを「ノーフリーランチ定理」という。もともとは特定の学習モデルをさまざまな問題に適用すると、結局平均的な学習能力しか発揮しないというものだ。このことは、現在のAI、すなわちディープラーニングが万能ではないことを示している。

 要するに問題に対して、それぞれ個別に適切なモデルを定義しないと、いかにディープラーニングといえども効力を発揮しない。個人的に「シンギュラリティ」議論に疑問を持つのはこのあたりだ。つまり、人間がモデルを定義しないとディープラーニングといえどもうまく動作しないのであれば、“人間を超える”などというのはありえないのではないかという感触だ。

 もちろん、適切なモデルが定義できた場合、個別の問題については既に人間を超えている面があるのは否定しないし、それは事実だ。だが、問題に対してモデルを生成する能力は、人間には及んでいない。