残業の上限規制について、政府の議論が大詰めを迎えつつある。残業の上限を1カ月60時間、年間720時間として、繁忙期は「1カ月100時間未満」という形で進みそうだ。NTTやKDDIといった情報通信系企業の労働組合で構成される情報産業労働組合連合会(情報労連)の柴田謙司書記長に、新しい残業規制に関する期待や懸念を聞いた。
労働組合の立場で、期待や懸念はあるのか。
労働時間の上限を法律に明文化するのは画期的だと思う。労働基準法の70年の歴史でもなかったこと。こうした規制を作ることには賛同したい。
ただ、心配もある。経営者が法律に書かれた上限の時間を「ここまでは働かせていいんだ」と通常の残業時間と認識してしまうことだ。数値化することによる逆作用がないようにしないといけない。あくまでも、36協定(残業について労使で結ぶ協定)を結んだ場合の残業時間の限度である「1カ月45時間、1年360時間」が基本だ。
歯止めを掛けるには労使で協議できる体制が必要だ。現状でも、大きい労働組合は残業が年間360時間を超えるときに労使で協議をする。なぜ残業が必要なのかといった理由を承認しないと、制限を超える残業はできない。日本企業の労働組合組織率は16~17%と低い。新興のIT企業ではさらに低いと思う。労使の協議がちゃんとできるのか強い問題意識を持っている。
情報通信業の現状の残業時間をどう認識しているのか。
残業時間が長すぎると考えている。予算の問題や納期に引っ張られ、残業せざるを得ないことが多い。特に年度末は無理なオーダーを受けたりする。36協定の特別条項で上限が年間1000時間という職場もある。今回の法律で示されようとしている時間と比べても、かなり多い。
現場の人数に対しての仕事量も多い。客先常駐でクライアントからオーダーが急に出されたり、運用中のシステムが急にアラームを出したりもする。そういうことを何とかしないといけないとなると、どうしても残業することになってしまう。