「渋滞学」で知られる東京大学 先端科学技術研究センター 工学系研究科航空宇宙工学専攻(兼任)の西成活裕教授は、現場の余裕を失わせるような残業抑制の進め方に警鐘を鳴らす。仕事量を減らさずに残業時間の上限を定めるだけだと、その副作用として「仕事の渋滞」が発生するからだ(そのメカニズムを解説した前回記事はこちら)。渋滞学の知見を生かして多くの企業に業務改善のアドバイスをしている西成教授に、仕事の渋滞解消を目指した無駄な仕事のなくし方を聞いた。

(聞き手は白井 良=日経SYSTEMS)


残業抑制は政府方針でもあり、罰則付きの上限規制がトップダウンで作られるだろう。これは現場にどう影響するのか。

 規制という形で政府が一斉にやろうとしているのは、良いことだと思う。残業が発生する要因は、企業の内部と外部のそれぞれにあるが、これまで動かしづらかった外部の要因に手を付けられるようになる。自社も取引先も皆、政府から規制を受けるという状況になる。共有感覚が生まれ、「政府が言っているんだから一緒になってやりましょう」と取引先と交渉しやすくなる。

東京大学 先端科学技術研究センター 工学系研究科航空宇宙工学専攻(兼任)の西成活裕教授
東京大学 先端科学技術研究センター 工学系研究科航空宇宙工学専攻(兼任)の西成活裕教授
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 お互いが残業の外部要因なので、歩み寄りできるのではないか。普段だと外部要因は交渉が難しい。下手に切り出すと「あなたの会社はいらないよ。別の会社とやるから」となる。誰か言い出しっぺが必要だった。働き方を変えるのは、自社だけでは難しいことが多い。特に(IT業界も含めた広い意味での)サービス業はそうだ。

 現状の問題点は具体策が丸投げされているところ。ただ、これは仕方がない。官僚が民間企業の現場業務を熟知しているなんてあり得ない。だから「上限を決めるから、上限のなかで工夫してくれ」というところまでが政府の役割なんだと思う。

では、民間企業の現場や経営層、マネジメント層はどう残業抑制にアプローチしていくのがいいのか。

 まずは残業が発生する要因について、内部要因と外部要因に分ける。ここをはっきりしないとグシャグシャになってしまう。そして、さっさと内部要因の改善に取り組む。

 内部要因の改善としては、「トヨタ生産方式」や「制約条件の理論(TOC)」などにヒントを求めれば良いと思う。そういう手法が全く入っていない部署だと、本で2カ月、3カ月勉強するだけで問題が見えてくる。例えばコピー機まで1日何回も歩いて行っていたら、置き場所を変えればいい。これはトヨタ生産方式でいう歩数の改善だ。

 トヨタ生産方式の応用で良く効くのが、1日の仕事が終わった後に集まって「今日1日何を待ったか」とヒアリングすること。メールの返事を待っていたとか、上司の押印を待っていたとかが分かる。待ち時間は明らかにいらない時間だ。仕事のすき間と待ち時間は違う。待ち時間は全く付加価値を生んでいない。あとは、「待たせた時間」も個別に聞く。待った人と待たせた人が話し合えば一瞬で解決する問題が多い。